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第8話
タクシーに押し込まれ、高堂くんが「さっきのアパートに戻ってください」と告げる。
これから高堂くんの家に行くの!?
それは申し訳ないというか…
「あ、あの、俺は電車とかで帰…」
「自力で立てない酔っ払いが何言ってんの?」
遮った高堂くんの声は、怒りの為か鋭かった。
「…、本当にこんな時間に急に呼び出してごめん。
呼んだのはきょんちゃんだけど…」
「いや、連絡があったことは”きょんちゃん”に感謝してる。
でもさ…、きょんちゃんって男だったんだ」
「え、あ、うん。
男っていうかオカ…、オネェだけど」
「文くんはさぁ、男だったら女装家でもいけるわけ?」
何のことか一瞬分からなかったが、おそらくこれは、”きょんちゃん”が俺の恋愛対象か聞かれている気がする!
「オネェは好きになったことないから分からないけど、でも、きょんちゃんも俺もネコだから!
そういうのではない…、よ」
「あっそ」
そう言ったきり、彼は窓の外に目をやって黙り込んだ。
俺としても、流石に何か言える空気ではないと察して、膝に置いた自分の手を眺める。
見慣れた彼のアパートの前につき、俺がタクシー代を出そうとすると、
「きょんちゃんに貰ったんで」と、高堂くんが払った。
きょんちゃん…、なんて良いおと…女!
高堂くんを呼び出したことは、許せないけれど。
引っ張られるようにして部屋に連れ込まれると、俺はリビングで正座させられた。
「…、で、俺が来なければゲイバーに行く気だった?」
「え、それはそうだけど。
きょんちゃんともそういう約束だったし」
「文くんみたいなのがそんなとこ行ったら、お持ち帰りどころじゃないだろ。
輪姦されても文句言えなかったと思う」
「り!?」
そんな言葉、一体どこで覚えてきたの!?
君、まだ学生だよね!?と突っ込みたいが、口を噤む。
「そんな事されないよ。
ゲイだって選ぶ権利あるし」
「文くんの初さが爛れた大人の心を擽るって分かってないの?」
「う、うぶ!?
俺、社会人だし!めちゃくちゃ大人だよ!」
そう言ってから、こういうところガキなんだと思い至る。
俺は高堂くんと比べて、経験が少ないと思う。
だからこそ、きょんちゃんがいるような大人の世界に少し憧れがあった。
「…、まあ、そうだね。俺は無知だと思う。
だから、経験を積むチャンスだとは思ってたかも」
俺は項垂れて行った。
こんな恥ずかしいことを言わなきゃいけないのか。
「…、文くんは俺だけじゃ不満?」
ぽつりとつぶやかれた一言に俺は視線を上げる。
「え、そういうわけじゃない…、けど、
だって、高堂くんはいつか素敵な女性と付き合って結婚して、そしたら俺なんかいらないじゃん。
俺はそのうち飽きられるから、それなら他の…」
「そんなことするわけないだろ!
とっくの昔に他の人なんか切ったし、文くん以外と会ってない。
俺、男の経験は文くんだけだから、下手かもしれないけど、誰かと文くんを共有するなんて嫌」
泣きそうな顔で言う彼をぼんやりと眺める。
言われたことをかみ砕こうとしているんだけど、なんかその…、自分に良いように解釈してしまいそうだ。
いやいやいや!!違うよ!!!
高堂くんがまるで俺を好きみたいな…、そんなわけがない。
これはあれだ、独占欲!
俺を物かなんかだと思ってて、それで独占欲が湧いてるだけなんだ!
「わ、分かった。
高堂くん以外とはしない」
俺は自分を納得させてそう言った。
しないっていうか、したことないんだけど。
「それだけじゃダメ。
会わないし、連絡も取らないって言って」
「あ。でも、きょんちゃ…」
「俺だけでいいんだよね?」
「はい」
圧に負けてしまい、頷いた。
いつの日か、高堂くんに捨てられて、途方に暮れるボロボロの自分を想像して体が震えたけども、今は頷かないと怖い。
「約束だからね」
彼はそう言って笑うと俺を立たせた。
「とりあえず、香水臭いからお風呂入って」
と、バスタオルを押し付けられ、風呂場に押し込められる。
「俺、香水なんてつけてないけど?」と、俺が言うと、高堂くんは顔を歪めて「あんだけ抱き着いてたら移るに決まってるだろ」と忌々し気に言い捨てた。
ポカンとしたけれど、そういえばきょんちゃんに抱きついたことを思い出した。
高堂くん、香水とか苦手なのか…、滅多につけないけど、彼と会うときは今まで通り使わないでおこうと思った。
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ささっと体洗って脱衣所を出ると、高堂くんのTシャツだけ置いてあった。
いつも、泊まりの際はお泊り道具を持参していた。
(彼の家に物を置いていく勇気がなかった)
彼シャツってやつか!と思ったのも束の間、パンツがない。
さっきまで俺が着ていた服たちもない。
ノーパンってこと…?
「文くん、上がった?」と、ドアの外から声を掛けられ、俺は慌ててTシャツだけを着て「うん」と返した。
ガラリとドアが開く。
何ですぐ外で待ってるんだよ、と思いつつ、脱衣所を出ようとする抱きしめられた。
「え、え??へ??」混乱して間抜けな声を出している俺を高堂くんはぎゅうぎゅう抱きしめる。
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