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第10話

翌週のお昼デートの日まで、俺は月・水・金と1日おきに呼び出され、専属セフレとしてのお務めを果たした。 平日だから泊まらないし、残業もあってせいぜい1~2時間で帰っていたけれど、以前よりも口数は増えた。 まるで最初の頃に戻ったようで嬉しかったけれど、だったらあの冷たい期間はなんだったのかと問いただしたい。 言ったところで「めんどくさ」とか「じゃあもう会わない」とか言われそうで、俺の口からは訊けないけれども。 きょんちゃんからメッセージで「あたしに感謝なさい」と来ていた。 伊織くんからの呼び出しが多くて、とても通話はできないけれど、おごってもらったりタク代の恩もあるので感謝のメッセージは送った。 本当なら何かしらお礼をするべきだろうけど、水曜日には九州に帰ってしまったので、俺がいつかそっちに行ってお礼にボトルとか入れよう。 金曜の夜、高堂くんから「どうせ明日会うんだし、泊まればいいじゃん」と言われたけれど、スーツと寝間着しかないし、結局家に戻らなくてはならないためお断りした。 ちょっとだけ不機嫌になった伊織くんに怯えつつ、これだけは言わねばと思い、重たい口を開いた。 「あの…、俺、デートとかしたことなくて…、どこ行くもんなの?」 伊織くんは驚いた顔をした。 そりゃそうか。 今年で25歳だってのに、デートしたことないとか信じられないよね。 友達と出かけたことはある。 でも、デートではない…、よな。 「俺もそこまで詳しくはないけど、エスコートしますよプリンセス」 そう言ってニヤニヤしながら俺の手の甲にキスをした。 その動作自体は見惚れてしまいそうなくらいサマになっていたけれど… 「馬鹿にしてるだろ!年下の癖に生意気な」 と、俺は彼の頬を抓った。 「いててて…、馬鹿にしてないって」と彼は笑ったけれど、笑っている時点でそういうことだろう。 でも、機嫌が直ったみたいでホッとした。 初デートってやつが険悪だったら最悪だもんね。 そして土曜日。 支度をし始めて俺は、着ていく服がないことに気が付いた。 2年前の伊織くんと出歩いていたころに買った服ばかりだ。 こないだきょんちゃんと会った時の一張羅は、伊織くんに見られているし… とにかく捻りだして、なんとか家を出た。 あと少し遅れていたら遅刻するところだった。 待ち合わせの駅は、俺が滅多に降りない、飲食店やお店が周りにたくさんある栄えたところ。 伊織くんに出会った頃に来て以来だ。 伊織くんは先に着いていて、携帯を弄っていた。 久々に部屋着じゃない彼を見た。 髪もセットされているし、以前よりもさらにあか抜けた感じがする。 大学ではあんな感じなのかな…、鬼モテそう!! 声をかけるのを躊躇ってしまうくらい。 少々遠巻きに眺めていたら、顔を上げた伊織くんと目が合う。 俺は慌てて駆け寄った。 「おはよう。早いね」 「珍しく早起きしたから。 昨日ぶり」 そう言って彼はにっこりと微笑む。 昨日ぶり、と言われると昨日のアレやコレやを思い出して赤面しそうになる。 「なんですぐ声かけてくれなかったの?」 そう問われて、俺は誤魔化そうとしたけど正直に答えた。 「いや、えっと…、外で会う伊織くんが前より眩しくなってて、声が掛け難かった?というか…」 「ああ、ちょっと雰囲気変えてみた。 文くんは、普段着だと若く見えるよね」 「それって…、子供っぽいってこと?」 ムッとしたけど、自分でも服のセンスがないことは分かっているから言い返せない。 「逆だよ。スーツが大人に見えすぎる。 仕事終わりの文くん見るとさ、まるで自分が子供だって言われてるみたいで、少し寂しかった」 「そ…、そうかな」 そんなことないでしょ!って言おうとしたけれど、学生から見たらそうなのかもしれない。 「ま、4月からは俺もそれを着るわけだけど」 「伊織くんは背が高いし、骨格もしっかりしてるから似合いそうだなぁ。今度は俺が…」 俺が置いていかれた気持ちになるのかな。 そう言おうとして、そのころには俺は切られて社会人になった姿を見ることはないかもな…、と胸がちくりとした。 「文くん?」 「や、なんでもない!行こう! どこ連れて行ってもらえるか楽しみ! あ!すっごい高級店とかは無しだぞ!」 そもそも外で会うのは、「いつもご飯を作ってもらっているお礼」のためだ。 どーんと寿司でも高級焼肉でも奢る、と言いたいところだけれど社会人3年目の一人暮らしなんて、それほど余裕はない。 「分かってるよ。それは記念日とかに取っておくから」と、彼は笑った。 記念日って…、今後できる彼女とか恋人のための? 伊織くんはけっこう残酷なことを言うなぁ… ちょっとおしゃれなレストランで食事を終え、俺は連れられるがままVRゲームができるアミューズメントに来た。 そこは俺が行きたいと思っていた所で、とてもテンションが上がる。 「一人じゃなかなかいけないなって、ずっと思ってたんだ! 伊織くんありがとう!!」 俺が高いテンションのまま言うと、 「文くん、ゲーム好きだもんね。 喜んでもらえてよかった」 とほほ笑む。

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