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第11話

「きょんちゃんが東京来た時に誘ってみたけど、ゲームなんて家でできるのが良いんじゃない。 VRなんて興味ないってバッサリ切られちゃったんだよね」 と言うと「きょんちゃんね…」と低い声で伊織くんが呟く。 そういえば、連絡とるなって言われてたんだっけ!? 「まだ連絡とってるの?」と怖い笑顔で問われ、俺は首を横に振る。 「俺は奢ってもらったし、タクシー代ももらったからお礼の連絡だけ! きょんちゃんも忙しい人だから、返信とかは来てない!」 「ふーん」 まだ疑わしげな眼をしている。 きょんちゃんも同じ気持ちだと思うけど、俺ときょんちゃんは万が一にでも、そういう関係になることはない。断じて。 「きょんちゃんは、髭面でムッキムキのジェイソンステイサムみたいな年上が好みだから、絶対にありえないよ!! 伊織くんに訊かれて答えられなかったけど、女装家にも興味がないし! だから、本当にそこがどうこうとかは…」 と俺が長文で言い訳をしていると、彼が溜息を吐いた。 俺はびくっと肩を強張らせて、そっと彼を見上げる。 嫌われたかな… 「ごめん、文くん。 文くんの交友関係にまで口を出すとか心狭すぎるよね。 冷静に今後の事を考えると、文くんの友達まで制限するのは良くないよね」 「あ、いや…、俺が危なっかしいのが悪いんだよね?」 自分ではそう思わないけれど、きょんちゃんからは良くそう言われていた。 「自覚あるんだ…」と伊織くんは驚いた後、「だから、きょんちゃんは許す」と言った。 正直それは助かる。 きょんちゃんはたった一人の友達だから。 -------------- 「はぁ~、満足したー!!」 3時間ぶっ続けで遊んだ俺は、休憩所のベンチに座り込んだ。 「ずっと遊んでたもんね。はい、お茶」 隣に座った伊織くんが缶のお茶を差し出す。 「えっ、いつの間に買ったの!? あ、お金…」 俺が財布を探そうと鞄に手を掛けたところで、「いや、いいよこのくらい」と伊織くんが制した。 「え、でも、俺がお礼をするっていう…」 「もう奢ってもらったから十分だよ。 それよりも、俺は文くんの喜んでる顔が見たいかな」 「あ、え、は、はい」 急に甘いことを言われて、俺はどぎまぎしながらお茶に口をつける。 え、なんか俺が彼氏づらするってより、伊織くんがそうしてる気がするんだけど…? 彼氏づら作戦に彼氏づらを返された場合どうすれば正解なの、きょんちゃん… 満足した俺たちは、晩御飯も食べるか、ということになり移動した。 そこは、居酒屋が立ち並ぶ繁華街で、少し奥に行くとたちまちホテル街になる。 ちょっと派手な地区だ。 出会った頃は、居酒屋→ホテルの流れが多かったので、伊織くんとは来慣れた場所。 でも、居酒屋で飲むなんて久々だから、どうせなら初心に帰るか、と一番最初に会った安いチェーン店に入った。 「懐かしいね。あ、俺ここのポテト好き!」 俺がウキウキでメニューを眺めていると、「文くんは出し巻きも好きだよね」と伊織くんが言った。 「え、言ったっけ?」 「ううん。でも、居酒屋行くといつも注文してたから」 無意識に毎回頼んでいたらしい。恥ずかしい。 でも、そんなとこよく見てるな~と感心した。 「バレてたとは恥ずかしいな」と俺が笑う。 伊織くんは目を細めたあと、「だから卵焼き練習してた」と言った。 「え?」 「卵焼き好きなのかなって思って、綺麗に巻けるように練習した」 「あ、そうなの?甘かったから、てっきり…」 てっきり他の誰かのために作ってるのかと思った…、とは言えず俺は濁した。 「やっぱり甘いのより、だし巻きが好きなんだね。だし汁入れると緩くなってまだ上手く巻けないから、もう少し練習するから待ってて」 と、伊織くんが不服そうに言った。 え、ええ??? なんか俺の脳がキャパオーバーなんだけど? 「い、いいよ!その気持ちだけで俺は腹いっぱいだから。 無理してそんなことしなくていいよ」 「どうせなら食べてくれる人が好きなものを作りたいじゃん。 それに俺、結構負けず嫌いってわかったから勝つまで辞めないよ」 「え、ええ? でもさ、練習で作ったものって伊織くんが食べるんでしょ? 飽きてこない?」 「ううん。食べてるうちにだんだん好きになってきた」 普通、同じものを食い続けたら嫌いになるんじゃないだろうか? でも、伊織くんがそういう特性なら…、俺とやっているうちに、だんだん俺を好きになったり…、するはずないか。 俺は出し巻き玉子じゃないもんな。 「あ、文くん、レモンサワーでいい?」 と聞かれ、俺ははっとして頷いた。 とにかく今は、伊織くんとの時間を噛みしめよう。 晩ご飯を食べ終え、今日はほろよいで外に出ることができた。 そう言えば…、この後どうするんだろ… なんとなく店の前にいるのは悪いと思って、歩き出す。 「この後って…」と言いかけたところで 「あれ?高堂じゃん!」と伊織くんが声をかけられた。 伊織くんよりは背が低いけど、派手な感じの男の子だ。 「ああ。こいつ、大学の友達」 伊織くんが俺に紹介する。 「初めまして」と、俺が挨拶をする。 その男は「あ、どうも」と言った後、俺をじっと見つめて「この人もマチアプの人?」と訊いてきた。 「いや…」と伊織くんが濁したところで、彼が「やっぱ男って面倒じゃなくていいだろ?この辺、ホテル近くていいよな!俺もこれから男と会ってくるんだ。じゃ」と笑って颯爽とホテル街に向かっていった。 ホテル直行タイプか… 伊織くんもそれくらいドライなら、俺も恋に落ちなかったのかな。 男は面倒じゃなくていい… その言葉が俺の胸につっかえた。

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