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第12話

「ごめん、失礼なやつで」 伊織くんの友達が嵐のように過ぎ去った後、伊織くんが申し訳なさそうに言った。 「いや!全然!」 と、俺は答えつつも、彼の言葉が心に引っかかっている。 男は楽だから…、やっぱり、伊織くんが俺に構うのって男だからだよな… 恋人にするなら女性なのだろう。 「この後…、うち来る?」 と、伊織くんに聞かれた。 あの友達に会う前なら二つ返事で「行く」と答えただろう。 でも…、なんだかそういう気分になれない。 「いや…、まだ電車もあるし帰ろうかな」 と、俺が言うと伊織くんは悲しそうな顔をした。 「予定ある?」 「いや…、えっと…」 嘘がつけない俺は、とりあえず予定があると言えなくて困ってしまった。 「さっきあいつが言ってたこと、説明したいから…、できれば来てほしいんだけど」 「全然気にしてないから大丈夫だよ! 俺は、自分と伊織くんとの関係が何であっても気にしないよ」 俺がそう言った途端、「俺は気にするよ!」と伊織くんが大きい声で言った。 周りの人が振り返り、俺たちに不躾な視線を送ってきた。 急に注目されて恥ずかしい… 「大きい声出してごめん。 でも、本当に説明させてほしいんだけど」 と、必死そうな顔で言われてしまい、俺は「じゃあ…、行く」と答えた。 でもさ、正直気まずいよね。 電車で伊織くんの最寄駅に向かうけど、何を話していいか分からない。 伊織くんも難しい顔をしてるし。 晩ご飯を食べ終える前までの楽しい気持ちがしおしおと萎んでゆく。 家につき、部屋に入るなり「本当にごめん」と伊織くんが謝った。 「いや、だから気にしてないよ! むしろ友達に見られちゃってごめんね」 と俺は言った。 俺は別に周りにゲイだってバレても…、そんなに気にしないけれど、 まだ大学生なのにセフレが男だってバレるのは可哀想だ。 いや、でも、友達もセフレは男みたいだし、そこは別にいいのか? 「俺は別に大学中に文くんを紹介しても良い。 俺、マチアプしてたけど、文くんと出会ってからは新規の人とはマッチングしてないし、その前までの人も全員切ったから!」 俺の腕を掴む伊織くんの手に力が籠る。 そんなに必死にならなくても、別に構わないのに。 「伊織くんは俺に気を遣わなくていいよ。 俺はもちろん、伊織くんだけだけど、伊織くんは俺だけにしなくて良いから」 「…は?」 急に伊織くんの声が低くなり、俺は驚いて彼を見上げる。 「なにそれ」 と、彼は俺を冷たい目で見おろす。 え、俺なんか変なこと言った? さらに手に力が込められて、俺は「いたっ」と声を漏らした。 「い、伊織くん、痛いよ」 と、手を離そうとするが、外せそうにもない。 「なんだよ、それ。 文くんは俺のこと好きじゃないの?」 急に図星を突かれて驚く。 好きとかそう言うのめんどくさくないの? 好きなんて言えるわけがない。 それで俺が黙っていると、彼は舌打ちをして俺をグイグイ引っ張って寝室に引き摺り込む。 え、やるの!? そんな気分じゃないって! 「や、やだ!今日したくない! 準備してないから無理だよ!」 そう言って抵抗するも、力では彼に敵わない。 そのままベッドに倒され、縫い付けられる。 「俺は自分のこと最低だと思うよ。 でもさ、好きでもない男を…、俺をその気にさせて弄んで、楽しかった?酷くない?」 泣きそうな顔で俺を見下ろしながら彼が言う。 なんで伊織くんが傷ついた顔をしてるんだ!? しかも、身に覚えのないことを言われてるし。 「も、弄んでなんかないよ! 伊織くんの友達も言ってたじゃん。 男は面倒臭くないからいいんでしょ? だから、精一杯面倒臭くならないようにしてるんじゃん! 俺だけとか縛らなくて良いよ」 俺も泣きそうなんだけど… 「恋人が面倒くさいわけないだろ」 伊織くんが苦しそうにつぶやく。 え…、恋人? 「恋人?誰と誰が…?」 俺が呆気に取られてそう言うと、伊織くんも目を見開く。 「は…? 俺と、文くんが、だろ」 「…え? ……、ええええええ!!?」 いや、ええ!?いつのまに!? 俺は驚いてしまって二の句が継げない。 「え、だって俺たち付き合ってるよね? だから、他の男は切ってくれって言ったのに… 付き合ってると思ってたの俺だけ?」 と、伊織くんが言う。 「え、えっと、いつそんな話に…?」 「先週!そうなったじゃん… え、俺たち付き合ってないの…?」 伊織くんが呆然と僕を見下ろす。 俺は俺で、何がどうなっているのか分からず、ただ伊織くんの目を見つめる。 「はぁ〜」と、彼がため息をついて俺を抱きしめた。 ぎゅうぎゅうと腕に力を込める。 俺は抵抗を忘れ、されるがままだ。 数分そうしていた。 不意に伊織くんが俺の耳元で「今から付き合って欲しい」と呟く。 付き合う…? それって、俺と伊織くんが恋人になるってこと? もちろん、すっごく嬉しい。 でも…、これっての本当に現実?? 「だめ?やだ?」 と、伊織くんが無言の俺に甘えるように言った。

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