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第17話

「なんか…、部屋の雰囲気変わった?」 と伊織くんに訊かれ、内心ギクリとした。 なんでって訊かれたらどうしよう… 「あ、う、うん。イメチェン?的な?」 「なんで?」 恐れていた問いに俺は「はわわ」とドジっ子のような声が漏れる。 セックスするためです!とは言えない。 それが何よりもムードを壊してしまうだろう。 「え、えっと、だから、イメチェンだよ。 最近、インテリアとか凝ってて…」 「ふーん。誰かの影響?」 伊織くんが疑わしげな眼をする。 「いやいや!全部ネットで調べて、高評価だった奴だよ! だから、ほら、統一感とかないでしょ?」 これは俺が『しまった』と思ったことだった。 複数のサイトからよりすぐったせいで、色味やサイズ感がまちまちなのだ。 間接照明に切り替えたらなんとかなるのでは!?と期待し、買い直さなかった。 そもそも、予算が底をつきた。 3年働いても、潤わないものは潤わないのだ。 「確かにそう…、か」 伊織くんが俺の部屋を見渡して頷く。 失礼だけどね!! 「あ、あんまり見ないでよ。 簡単なご飯作るから、寛いでて。 あ、先にお風呂入っても良いし」 俺がそう提案すると、「一緒に入る?」と訊かれた。 これに『うん』と答えたことは一度もない。 「いや、俺んちのお風呂、伊織くんの家のより狭いから無理だよ」 と答える。 「俺んちのも一緒に入ってくれないじゃん」 「だ、だってさぁ!一般家庭のお風呂って、めっちゃ明るいんだよ!? 恥ずかしすぎて無理だよ」 「ホテルでも断ったくせに」 「あの時は会ったばかりだし、伊織くんは男初めてだったし、見たくなかったでしょ」 「見たいけど」 「とっ、とにかく、ダメ!」 俺がそう叫んで、ぐいぐいと伊織くんをバスルームに押しやる。 「じゃあさ、同棲するときは広くて間接照明ありのお風呂がある物件にしようね」 「えっ、は、はぁ??」 と俺が素っ頓狂な声を上げる。 「そしたら、毎日一緒に入れるね」 「は、入りません!!!」 っていうか、同棲もしません! と、怒りつつも顔が熱いので、どうせ間抜けな顔になっているだろう。 伊織くんはクスクス笑いながらお風呂場に消えた。 俺が伊織くんをその気にさせなきゃいけないのに、何故か俺が翻弄されている。 このままではまずい。 俺は気合を入れて夕食の支度をする。 あれ…、今思ったんだけれど、一緒にお風呂入ってたら、そう言う雰囲気になる?? もしかして、俺、チャンスをみすみす逃したのか!? 後悔しても時すでに遅しってやつかもしれない… 俺はがっくり項垂れそうになった。 でも、また作ればいい、チャンスを! 数分格闘していると、伊織くんが髪を乾かし終わり、キッチンに来た。 「仕事終わりなのに、ご飯作らせちゃってごめんね」 と言いながら俺に抱き着いて来る。 「ちょっ、あ、危ないからあっち行ってて!」 風呂上がりのいい香り×バックハグはまずい。 手元が狂うし、何より、多分勃つ。ナニが。 「え~、酷い。お手伝いもできるよ?」 「い、いや、簡単なものだから。大丈夫。 寛いでて!」 俺が必死にそう言うと「ふーん」と伊織くんが不貞腐れながらリビングに行った。 離れていく温度と香りが寂しくて、思わず手を掴みそうになるけど、直前までニラを刻んでいたので手を引っ込める。 ニラの香りって強いからね、うん… どうにかこうにか料理を終えて、テーブルに並べる。 伊織くんはまだ拗ねている。 「い、伊織くん、食べないの?」 体育座りのまま動かない彼に声をかける。 「食べるけど…」 「うん。じゃあ頂きますしよう」 「…、イタダキマス」 ちゃんと言えて偉い。 あらかた食べ終え、伊織くんはサブスクの映画が流れているテレビ画面を見ながら「片付けは俺がするから、文くんもお風呂行きなよ」と言った。 「え、ええ?いいの?ありがとう。 じゃあ、お風呂入ろうかな… あ…、一緒に入る?」 俺がそう訊くと、彼は驚いた顔で俺を見る。 数秒の沈黙の後、「いや…、俺さっき入ったし」と気まずそうな顔をされた。 え!? いや、断られる前提だったけど、もっと「さっき入ったから今度ね」みたいな軽い感じで言われると思ってたのに! 自分がグイグイなのはいいけど、恋人側が乗り気だと萎える、みたいな感じなのか!? そう言う男性もいるってネットに書いたあったけど、伊織くんもそのタイプ!? 直接的に「やりたい」って言わなくて、マジで良かった〜。 でも、上手いことそっちに持っていかないと攻略できないってことだよね? ハードル高いなぁ… と、内心泣きながら、お風呂で準備をした。

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