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第18話
お風呂を上がると、伊織くんはまだ映画を見ていた。
「それ、面白い?」
「…、うん」
「そ」
どうやら熱心に見ているようだ。
なんか誘いづらいな…
俺は黙って隣に座る。
テレビだけが音を出していた。
普段から、映画や動画を見ている時の伊織くんは無口だ。
いや…、いつも大抵無口か。
俺がいつも動画に茶々を入れたり、感想を言ったりして、たまに伊織くんがそれに対して笑ったり、相槌を打ったりする。
だから、俺が黙ると部屋が静かになる。
結局、俺だけがソワソワしたまま1時間半が経ち、映画は終わった。
え、ありえないくらい気疲れしたんだけど…
俺はぐったりして「もう寝ない?」と伊織くんに言った。
「あ…、うん。いいけど」
と伊織くんは言い、渋々と言った様子で立ち上がる。
まだ起きていたいのだろうか?
もう日付を超えているんだけれど。
お互いに1つの布団に入る。
俺のベッドは、伊織くんちのより小さい。
っていうか、伊織くんのベッドがデカいだけだ。
一人暮らしでセミダブルとか…、もうそういう目的で買ったとしか思えない。
けど、伊織くんの寝相が悪いことが判明したので、心配したお家の方が大きいのを買ってくれたのかな、とも思う。
そのまま目を閉じた伊織くんに、思わず俺は声を掛けた。
「あの…、今日はシないの?」
勇気を振り絞った。
自分の心臓が痛いくらいなっている。
「うん、シなくてもいいよ」
その一言に俺は感情があふれ出す。
悲しいのか、腹が立っているのか、なんなのか分からないけれど気が高ぶった。
「なんだよ、それ!!」
----------(伊織視点)
お風呂上がりのいい香りがする文くんが横に寝ている。
それだけで、俺は危うく手を出してしまいそうになる。
でも…、我慢だ。
「今日は、シないの?」と、甘えた声で文くんが言った。
俺の理性があと少し脆かったら、今すぐに襲い掛かっていただろう。
俺はぐっと堪えて「シなくてもいいよ」と伝えた。
それが、恋人への思いやりだと思っていたから。
が、聞こえてきたのは「なんだよ、それ!」という文くんの怒気を含んだ声だった。
語尾が震えている。
俺は驚いて文くんの方へ顔を向けた。
間接照明だけが点いているので文くんの顔までは見えないけど、体を起こして俺を見下ろしている。
「何?文くん、どうしたの?」
俺は恐る恐るそう聞いた。
今まで、本気になってしまった一夜の相手が、俺を責め立ててくることがあった。
全くの無感情で眺めて、なだめることが出来ていたのに…
相手が文くんとなるとそうはいかない。
なんで怒っているのか、声が泣きそうなのか教えてほしい。
「何?、じゃないだろ!!
俺以外で相性がいい奴がいるなら言えよ。
そしたら、ちゃんと別れるから!
それもさせてくれないなんて…、酷すぎる」
そう言って顔を自身の膝の間に埋めてしまった。
かくいう俺は、文くんが何を言っているのか全く分からず混乱していた。
「え、は?相性がいい奴ってなに?
っていうか、別れるって言った!?
マジで何?どういうこと?」
俺は慌てて文くんの肩を揺する。
が、頑なに顔を上げてくれない。
「今は無理。ちゃんと話せそうにない。
ごめん…、タクシー代出すから帰って」
「はぁ?俺の方が無理なんだけど!?
恋人が別れるって泣いてるときに帰れるわけない。
それに悪いけど、絶対に別れないから。意味わかんないし」
体育座りのまま、依然顔を上げない文くんを抱きしめる。
泣いて体温が上がっている文くんが良い匂い過ぎて、こんな時なのに起ちそうなんだけど…
「意味わかんないのはこっちだろぉ。
俺の事、もう抱けなくなったなら言えよぉ」
グスグスと泣きながら文くんが言う。
文くんを泣かせてしまったことに後悔する。
「抱けないわけないだろ!
今だって起ちそうでヤバいのに」
俺がそう言うと、文くんはパッと顔を上げる。
絶対ポカンとしているんだろうな。
電気点けたいんだけど。
俺はリモコンを使って電気を点けた。
「わっ!最悪!!見るな!」
と、また文くんは顔を隠す。
「なんで?文くんの顔見たい」
「俺だけ泣いてバカみたいだろ」
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