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第25話
「もしかして、高堂くんのプレゼント選びですか?」
と、青野さんに聞かれて、俺は驚いて「え?」と声を漏らした。
「やっぱり〜。
私もそろそろ選ばなきゃなって思ってて!
彼のお財布がちょっと擦れてたから、お財布を買おうと思ってたんです!
あ、お財布は私が買うので、文さんは別のを選んでくださいね!」
と、彼女に矢継ぎ早に言われ、俺は思わず頷いていた。
伊織くんのお財布が傷んでいるなんて、俺は気づかなかった。
だから別に、お財布を買う気はなかったけれど…、たかだか同じ会社の先輩が後輩にハイブランドのお財布なんてあげるものだろうか?
っていうか、それを使う伊織くんを想像したら…、普通に嫌なんだけど。
「あ、あの、でも、会社の先輩からここのお財布貰うって、変じゃないですか?」
俺は意を決して言った。
恋人なんだから、このくらいの口出しは伊織くんも怒らないだろう。
その瞬間、青野さんの顔色が変わった。
「別に、何あげようと私の勝手ですよね?」
高圧的に言われて、俺はびっくりする。
モールで会ったときはあんなに人当たりが良さそうだったのに。
「で、でも、あまりに高いものを頂いたら、萎縮してしまうと思うんですけど」
尻すぼみにそうとしか言えなかった。
俺がオドオドしているからか、青野さんはさらに強気になる。
「そもそも、“先輩”じゃなくなるかもしれないじゃないですか。
そしたら、文さんは“同居人”をやめてくださいね。
20超えて同性同士で同居って変なので」
「それはっ…」
それは、俺たちが恋人だから変じゃない…、とは言えなかった。
伊織くんに迷惑がかかってしまう。
「っていうか、高堂くんにまとわりつかないで貰えませんか?
何に誘っても“同居人が待ってるので”って断られるんです。
彼の世界を狭めるの止めてもらえません?」
「…っ」
俺が言い返せずに青野さんと睨み合っていると、お店の人が空気を察してか「何かお探し物でも?」と声をかけてきた。
青野さんがにっこりとして「男性に贈るお財布を探してまして…」と話し始めた。
俺は逃げるようにお店を出る。
青野さん…、手強い。
もうプレゼント選ぶとかいう気分じゃないな〜と、とぼとぼ歩く。
お財布…、なんで気づかなかったかなぁ、一緒に住んでるのに。
でも、青野さんと被らなくてよかったのかな?
帰るために駅に向かおうかと悩んでいると、
『文くん出かけてるの!?
家帰ってもいなくてびっくりしたんだけど!』
と、伊織くんからメッセージが来ていた。
『うん。買い物してた』
と返してすぐに『どこで?俺もすぐそっち行くから外でランチしよう』と返事が来た。
伊織くん、ちゃんと俺のこと好きなんだな。
いや、むしろ好きすぎでは?と思い、思わず笑みがこぼれた。
きっと、青野さんが全力でアタックしても大丈夫…、だよね。
こっちの駅に来られたら、青野さんと鉢合わせしそうで嫌なので、少し離れたところを伝える。
俺たちの家からスタートなら、俺の方が先に着くから大丈夫だろう。
そして、俺は伊織くんに直接欲しいものを聞こう。
だって、俺は恋人なんだから。
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