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第26話

伊織くんと合流するなり、「なんで1人で出かけちゃったの?」と訊かれる。 ここで話すのもどうかと思われたので「家に着いてから話すよ。あ、あのパスタ屋さんでご飯を食べよう?人気店なんだって」と言うと、伊織くんは渋々頷いた。 SNSで調べていた通り、美味しいパスタ屋さんだった。 いつもながら、料理の話や雑談をするけれど、伊織くんは少しぼんやりしている。 そんなに俺が1人で外出したことが気にかかっているんだろうか? 体感いつもより早くお店を出て、家に向かう。 その道中も、伊織くんはあまり話さなかった。 家に着くなり、「で、どうして1人で外に出たの?」と訊かれる。 「ええ?そんな大した…、いや、大したことではあるけど、手洗いうがいして、お茶を出してからで大丈夫だよ」と俺は言う。 伊織くんの誕生日を”大したことじゃない”なんて、さすがにそんなことは言えない。 「た、大したことなの!?」と、伊織くんは少し動揺している様子だ。 急いでいたからパスタ屋さんで飲めなかったコーヒーを手に、2人で並んで座る。 「実は、サプライズにしたかったんだけどさ…、伊織くんの誕生日プレゼントを買いに行ってたんだ」 と俺が切り出すと、伊織くんは慌てて「え、嘘!?ごめん!!」と謝った。 「うわ、どうしよう…、俺めっちゃ最低だ。 文くんの浮気疑ってた… 文くんが俺のために出かけてくれてたのに」 そして「ごめん」と呟き続けている。 浮気を疑われたのは心外だったけれど、それに関しては俺も疑いかけたことがあるので何も言わないでおこう。 「いや、いいんだ。色々探してみたけど、どれもピンと来なくて… 伊織くんに直接聞こうと思ってたから」 と俺が言うと、伊織くんは「そんなのなんでも嬉しいよ」と即答した。 「そ、そっかぁ…」と言いつつもそれが一番難しいんだよなと苦笑する。 でも、俺も同じこと思ってたから、安心した。 まあ、当日までは時間があるし、気長に探そう。 そこでふと青野さんのこと思い出し、「あ」と声を漏らした。 「うん?」 「あ、ええっと…」 『なんでもない』と誤魔化したかったが、伊織くんの目が『言え』と言っている。 それで、俺は青野さんと偶然会ってからの攻防を話した。 「と言うことなんだけど」と俺が締めくくると「最悪だ…」と伊織くんが項垂れた。 「青野さんからハイブランドの財布貰うとか…、憂鬱すぎ」 「ごめん、俺がもっとちゃんと『要りません』って言えれば良かったんだけど」 俺がそう言うと、伊織くんは首を振った。 「文くんが言ったら、多分青野さんは文くんを攻撃してたと思う。 やっぱりさ…、青野さんだけには『男が好きです』って言おう」 「え!?」 俺は驚いて彼を見る。 そんな攻撃的な人に言っちゃって大丈夫だろうか? 激昂して、あることないこと言いふらさないだろうか? 「ふふっ。大丈夫だよ。 青野さんだって大人だし、ちゃんと諦めてくれるよ」 と伊織くんが言う。 彼が大丈夫だというなら… 「あ~、やっと言えると思ったら気が楽になった~」 と彼が喜んでいるので、それでよかったのかもしれない。 ----------- 週明け早々にカミングアウトしてきたらしい伊織くんは上機嫌だった。 「聞くまでもないと思うけど、上手くいったんだ?」と、ご馳走を食べながら訊く。 「うん。かなりびっくりして引いてたけど、俺のことは諦めるってさ。 そういえば、他部署でもう1人気になる人を見つけたらしいって別の先輩から聞いたからターゲット変えるんじゃない?」 と、ここ最近で1番穏やかな顔で伊織くんが言った。 「そっか、良かったね。お互い」 そう言って、伊織くんがるんるんで作った大量のご馳走を堪能した。 しかし、俺は伊織くんがどれほどの沼男であるかをすっかりと忘れていた。

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