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第17話

「どうしたの? 興奮しちゃった?」  そっとズボンの上から股間に手を伸ばされ息が詰まる。もう無理だ。そう思って秀治は男を引き剥がし厨房へ戻ろうとした。 「君、これあげる」  カウンター席に座っていた男性客が一万円札を片手にすぐそばにやってきていた。茶髪の温和そうな男。真面目そうな顔をしているが、はたして中身はどうだろうか。はだけたシャツの中に札を突っ込まれ秀治は申し訳なさそうにお辞儀をした。 「まだ慣れてないんだね。これから練習していけばいいよ」  形のいい唇をにんまりとさせ、男性客は元の席に戻っていく。こんな自分がチップを恵んでもらえるとは思いもしなかった。男と話している間も金髪の男は蛇のような動きで秀治の体を撫でまわしている。その動きが予測できないので逃れることができない。 「っほんとに、違っ」 「君、素質あるよ。だってほらこんなに……」  肩からずり落ちてしまったシャツに半分下ろされかけているズボン。黒い下着が露わになり、急いで両手で隠そうとすると待ってましたと言わんばかりに背中をそらされた。胸を前に突き出すような格好に客席から口笛が鳴る。あまりの羞恥に顔に熱が集まるのを感じた。なんで俺、こんな場所でこんなことしてるんだろ。 「恥じらう姿もヤマトナデシコらしくていいよ」  ヤマトナデシコ? それは女に使う言葉じゃないのか。まばゆい照明の下でそんなことを考えていると店内のドアがバタンと開いてずかずかと男が入ってくる。男の青い瞳はぎらぎらと鈍い光を放っていた。 「クイン。離せ」  客席がシン、と静まり返る。入ってきた男──降谷はあられもない姿になっている秀治を一瞥するとクインと呼ばれた金髪の男から剥ぎ取るようにして店の奥へと連れて行く。

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