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第20話 寮へようこそ
「ここだ。前の奴が退去してからまだ日が浅い。置いていった服も勝手に使って構わない。まあ、サイズが合えばだが」
最後の一言が余計だった。降谷に連れられた三階建てのオートロック付きのアパートはまだ築年数も浅いようだ。外観も洒落ていて黒い壁がきらきらと光に反射していた。
「……」
少しばかり息を呑む。秀治の住んでいたボロアパートとは全然違う。間取りも部屋の清潔さも、トイレと風呂もあってしかも別々なところも。少しの間住むにはもったいないくらいだ。
「じゃあな。俺は帰る」
「……」
そう言い残すと降谷はほんとうに帰ってしまった。シーンと静まり返る六畳の部屋の中で突っ立っていると、共用部分の廊下がなにやら騒がしくなってきた。そのうち複数の足音も聞こえてくる。他の住人が戻ってきたのだろうか。
突然、ピンポーンとチャイムが鳴らされる。しばらく居留守を試みるがついにドンドンとドアを叩かれ、仕方なく開けることにした。
目の前に飛び入ってきたのは金髪の塊だった。なんだ、これ。
「わーっ! やっぱり君も今日からここに住むんだね。ね、アレン。僕の言ったとおりでしょ?」
この金髪には見覚えがあった。降谷にクインと呼ばれていた男の髪だ。地毛なのだろう。さらさらと絹のように艶がある。今は髪もほどいていて遠目から見たら女のようにも見える。すぐ隣にいたアレンがしーっと人差し指を唇に当ててクインを叱る。
「こら。共用部分では静かにしろってダグから言われてるだろ」
「あー、そうだった」
少し声を抑えてクインが言う。秀治のことをじろりと見つめてくるので少したじろいた。
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