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第25話 いっしょにストリッパーやろ?
「シュウはクインのお人形じゃないんだから」
そう言って、やや酔いの冷めつつあるアレンが口を挟む。しかしその頬はまだほんのりと紅潮している。薄い緑色の目がとろんとしていて、眠そうだった。マカロニアンドチーズを腹一杯食べたおかげで秀治も眠気がやってきつつある。そろそろお開きかなと思って最後の一缶に手を伸ばすとその手をクインに取られた。
「なにするんだ」
「細い手だなーって。女の子みたいで可愛いから」
それを褒め言葉と受け取れない自分がいた。秀治は左手首の跡を見られないように長袖のTシャツを無意識に引っ張る。この楽しい雰囲気を壊したくはなかった。楽しいと感じることさえも久々のようで胸が高鳴る。
「蓮さんの許可もらえたら、一緒にストリッパーやろうよ」
猫撫で声でゆっくり耳元で囁かれ、体が震えた。
「でも俺、こんな薄っぺらい体じゃ客なんてつかないって言われたし……なにより人前に出るの苦手だし」
「うっそだー。今日だってもらってたでしょ。一万円。それってすごいことなんだよ」
大きな猫のようにソファに寝転びながらクインが秀治の黒髪をくるくると撫でる。それが心地よくて本格的に眠気がやってきてしまいそうになる。人との距離が近いのは彼らがアメリカ人だからなのだろうか。アレンに聞いたが二人とも生まれはアメリカで、それぞれ幼少期に日本にやってきたらしい。アレンは親の仕事の都合で、クインは日本好きの祖父の影響でやってきたのだという。
縁あってシャイニングムーンで働いていると聞いたが、二人とも日本語が上手だ。ネイティブとそう変わらないだろう。なにより、二人の容姿はきっと街中でも目を引く。長身で体格のいいアレンと細身でモデルのようなしなやかな体を持つクイン。顔の造形も整っていて、モデルと言われても疑わないだろう。
「ストリップって、そんなに楽しいのか?」
少しだけ興味がわいた。今日は無理矢理クインに服を脱がされてしまったが、あの光輝くステージに立つのは胸がスカッとして気持ちが良かったのだ。こんな自分でもまばゆい光の中に溶け込めるなら、それはきっと嬉しいものだと。今まで一度も触れたことのない世界の入り口に立っているようだった。
「なぁに? やっぱり気になるんじゃん」
にやにやと口角を上げてクインが言う。アレンもそっと耳をそばだてているのがわかった。
「楽しいっていうか、快感だね。僕にとっては、踊ってるときが一番生きてるって感じる気がするから」
だからやろうよ、と秀治の腕を引っ張ってくる。
「あんな格好で、恥ずかしさとかないのか? 慣れるものなのか」
一番気になっているところを聞いてみると、アレンは苦笑いをクインは満面の笑みを見せた。
「普段できない格好だから楽しいよ。チップもたくさんもらえるし。ていうか、エロいことならみんな好きでしょ」
そう言われて少し体を縮こませる。エロいことならみんな好き。果たして自分はどうだろうか。他人と付き合ったことがないからわからない。自己処理も生理現象をおさめるためのものだとしか考えたことがない。
「自分も楽しむし、相手も楽しませる。それがストリッパーなんじゃないかな」
アレンが至極真顔でそう呟いた。こんなに優しくて真面目そうな人も、気持ちいいことは好きなんだろうか。そんな疑問がふと頭に浮かぶ。
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