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第26話 もう少しお肉をつけよう

「ステージのシュウ。可愛かったよ、ほんとに」  クインが舌なめずりをして言う。真っ赤な舌と陶器のように白い肌のコントラストに目が泳ぐ。 「可愛いけど、もう少しお肉をつけたらもっとエロくなると思う」  唐突にそう言って秀治の頬をつまんできた。アレンはそれを楽しげに見ているだけだ。 「たしかに、ちょっと細すぎるかも。本気で目指すなら俺、美味しいものたくさん作ってあげる」  おっとりとした口調でアレンが微笑んだ。向日葵みたいな笑顔だと秀治は思う。二人に挟まれていると自殺したい気持ちが和らぐような気がした。やっと見つけた自分の居場所。そんな言葉が頭に浮かぶ。  こんなにあたたかい場所に自分がいていいのだろうか。初めて感じる人の温もりに固まった心がほぐれていくような心地がした。 「お金貯めないといけないし、厨房の仕事を覚えてから考えてみる」  やった! とクインがガッツポーズをとる。アレンはよしよしと頭を撫でてきた。ほんとうに二人ともスキンシップ豊かだ。  この場所になら、もう少しいてみようかな……。今まで感じたことのない気持ちが胸の奥底から溢れてくる。自分の探し求めていた場所はここなんじゃないか。光に満ちた場所こそが、ここなんじゃないか。  アレンに引きずられて自室に戻るクインを見送ってから、一人になった部屋のベッドで横になる。今日はなんて慌ただしい一日だったんだろう。どっと、緊張や疲れが体を覆う。明日もまたシャイニングムーンで唐揚げを揚げたり、シーザーサラダを混ぜるんだろうな。思い描いていなかった日々が始まろうとするのを感じて秀治はゆっくりと目を閉じた。

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