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第31話 君がお気に入り

「そう。覚えてくれてたんだ。嬉しいよ」  頭をよしよしと撫でられ気が変になりそうだ。 「あれから一度もステージに立ってないみたいだけど、裏方の仕事がメインなのかな」  紳士的な口調でそう聞かれ、思わず口が滑る。 「俺、厨房で働いてるから……ストリッパーじゃ、ないです」  尻すぼみに声が小さくなる。周りで響く甘い嬌声が耳に入りこんできて、なんともいえない気持ちになる。 「やっぱり。気づいてなかった? 俺君が厨房で一生懸命働いてるところ見てたんだよ」  こんなに小さいのにね。そう言って肩のラインを撫でられてくすぐったさに身をよじる。 「ストリッパーじゃなくてもいいよ。俺、君がお気に入りになっちゃったみたいだから」  なんと答えるべきかに悩み、口をつむぐ。とにかく、この男は俺とシたいらしい。そのために褒めまくっているのだ。 「俺、シたくないです」 「そう言われると燃えるな」  早く鎮火してくれ! そう願っても男の瞳はだんだんと熱を帯びていくように思える。シャツのボタンが一つずつゆっくりと外されて、薄いまな板のような胸があらわになった。嫌だーー。きゅっと目をつぶり次の動作に身を構えていると、そっと頬を撫でられた。 「そんなにびびらなくても、無理矢理はしないよ」  秀治はおそるおそる目を開けて男の顔と対面した。真面目そうなサラリーマンふうの男。でも中身はきっと獣みたいな、そんなギャップを持っているであろう男。 「だから、ね。触るだけならいいでしょ」  服の上から華奢な肩をなぞり、肋骨のあたりを撫でられてくすぐったい。変な声が鼻から漏れてしまいそうなのを必死に耐える。

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