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第34話
「また今度」
「あ、はい……」
ぼんやりとした頭でそう答えると髪にキスを落とされる。こんなに大事にされたことは今まで一度もなかった。体がふわふわとして、服を整えるのもやっとだ。
店内にはアレンとクインだけが残っている。クインはにやにやとカウンターで酒の補充を続ける秀治を見ていた。
「見ーちゃった。シュウもやっぱり興味あるんじゃん」
「ちょっと驚いた。こっち方面好きじゃなさそうだったから」
アレンが秀治の手伝いをしながらぼやく。クインはカウンター席に座って肘をついて秀治をじっとり見つめている。
「あの人、うちの常連さん。唯斗さんに好かれるなんてやっぱり素質あるよ」
ねーっ? とクインはアレンに同意を求める。アレンもうんと頷いた。
「なんつうか、あの人の雰囲気に流されただけだ」
そう。その通りなのだ。秀治は冷えた胸をさするようにして答える。
「蓮さんにお願いしてストリッパーになっちゃおうよー」
またその話か、と半ば呆れ気味にクインを見る。そんなに目をきらきらさせても何もやらないぞ。
「でもシュウ。おまえ金が必要なんだろ。ストリッパーになれば今よりは稼げると思うけど」
アレンがそんなことを言ってくるということは、彼も秀治の素質を見抜いているのだろう。秀治は頭を振った。あんなにきらきらとしたステージに自分が立てるはずがない。
「無理だよ。あんな少しの触れ合いでもびっくりするような俺がストリッパーになんてなれない」
そうかなぁとまだ説得してきそうなクインは無視することにして、酒の補充を無事に終えた。明日からまた忙しい日々がやってくるのだ。これ以上新しいことを覚えるのはとろい自分にはできないと秀治は心の中で呟く。
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