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第35話

「またXデーだけでも来る?」  アレンが笑いながら聞いてくるので秀治は目を伏せた。正直、興味はあった。自分の知らない世界を知るのはきっと楽しいものだと思うから。無色透明だった自分の人生に色を与えてくれるかもしれないから。 「気が向いたら、行くかもしれない」 「シュウなんて唯斗さんに開発されちゃえばいいんだ」  べーっと意地悪く舌を突き出すクインの頭を軽くチョップする。一ヶ月も経てば二人とずいぶんと親しくなれた。秀治にとっての初めて信用できる友人。この二人と今は一緒にこうして駄弁っているだけで幸せだった。しかし、そんな中でふとあいつのことを考える。他人を寄せつけない獣みたいなあいつのことを。降谷生きてるかな。一ヶ月も会っていない相手のことを考えるようになるなんて、自分もずいぶん人間らしくなったものだと感慨深くなる。今まではどんな人間にも興味が持てなかった。まわりにいるのは敵ばかりで、味方なんていないと思っていたから。  死のう死のうと考えていた頃とはまるで違う。この今があるのは、憎らしいが降谷のおかげだ。知らないことを知るのは怖いけれど楽しい。知らない異国の料理を口にするのも、初めての抱擁も。初めての他人の温もりも。気づけば全部降谷のおかげで得られたものだった。  今度会ったら不貞腐れてでもいいからお礼を言おうかな。なんて、俺らしくない考えを持つほどに降谷の存在は大きかった。

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