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第36話 礼の仕方
「シュウくん」
夢の中で何度も名前を呼ばれる。優しくて安心する声。その声で呼ばれるとたまらなく胸が弾む。
柔らかそうな唇がどんどん近づいてくる。ああ、キスされるんだな。そう思ってゆっくり瞼を閉じるとそこには──。
「おはようのチューだよ」
「うっ、えっ?」
んーっと唇を近づけてくるクインの髪を軽く引っ張る。
「減るもんでもないしそんなに拒否しなくてもいいじゃん」
むすっと頬を膨らませて恨みがましくこちらを見るクインに、秀治はやれやれと頭を抱えた。
シャイニングムーンに勤務して二ヶ月が経つ頃には、日曜の仕事終わりにクインとアレンの三人で秀治の家で宅飲みするのが当たり前になっていた。アレンはすやすやと穏やかな寝息を立てて床に寝転がっている。
今日は月曜日。また新しい一週間が始まる。シャイニングムーンは金曜から日曜にかけて一番客足が増えるので、月曜の朝ともなるとキャストは皆へとへとだ。ホールスタッフ兼ストリッパーとして働く彼らは月曜から木曜の四日間の間でコンディションを整え、また金曜日からの激務に備えるのだ。
しかし、クインは毎日元気いっぱいで疲れなんて知らないよといわんばかりにはしゃぎ回る。その相手をしているのがアレンと秀治なのだから、疲れて当然だ。まだ夢の中にいるアレンを起こさないようにそっとベッドから抜け出してクインに小声で話しかける。
「あのさ、蓮さんの連絡先知ってるか」
一応クインたちからは蓮さん、蓮さんと尊敬されているようなので秀治もそれにならう。
「蓮さんの連絡先なら知ってるよ。どうかした?」
なになにー?と興味津々な顔をしてクインは秀治の顔を覗き込む。こいつ、人との距離近いんだよなと秀治は顔をそむけた。
「ちょっと話があって、でも俺あの人の連絡先知らないから……」
「じゃあ教えてもいいか聞いてみるからちょっと待ってて」
そう言い残すとキッチンのほうに去っていった。
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