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第42話
「ちゃんと礼が言えるようにまでなったか」
少し遠い目をして降谷が呟く。これまでの自分だったら考えられなかった行動に、自分でも少し驚いている。
「このあと暇か」
唐突に降谷が訊いてきた。少し考え込んでから頷く。
「ダグ。こいつ借りてくぞ」
「わかった。じゃあまた明日、シュウ」
降谷は秀治のエプロンを強引に外してダグに放り出す。そのまま腕を引かれた。外に止まっていた車に押し込まれ、完全に降谷のペースで物事が進んでいく。気づけば降谷の家の玄関に立ち尽くしていた。
「ぼさっとするな。入れ」
背中を押されてよろめきながら廊下を進む。洒落た白と黒の額縁の中にどこかの国の絵が飾ってあった。秀治とは全く縁がないそれに妙に惹かれていくのはなぜだろう。絵なんて見ても何も思わなかったのに。少しずつ、秀治の中で価値観が変わっていくような気がした。
「脱げ」
と、開口一口にそう告げられ咄嗟に体を身構える。なんで? どうしてと頭の中でサイレンが鳴り響く。ぎゅっといつも着ている愛用のシャツの裾を握っていると、ソファにどっしりと座る降谷が静かに見つめてきた。やや睨みのかかったそれに耐えきれず、ゆっくりとボタンを外していく。その手が震えていた。何をされるのか容易に想像がついた。こうやって毒を消して、甘やかして降谷の手のひらで転がされるんだ。そう思うと恐怖で体がすくんでいく。さっき店で見せた降谷の笑みが頭の中から静かに消えていった。
シャツを脱ぎ終えると今度は降谷の視線が下に向かう。まさか、下も脱げと? そっとベルトに手を回してカチャカチャと乾いた音を立ててずり下ろしていく。
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