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第44話
秀治が固まっていると、早くやれと言わんばかりに降谷は睨みつけてくる。二ヶ月働いているとはいえ、アレンやクインの踊りを見ていただけの自分に真似することなんてできやしない。でも早くやらないと今にも雷が落ちてきそうで、秀治は記憶を遡って二人の振り付けを思い出そうとする。たしか、腰はくねらせて相手を挑発するような瞳で……。
なんとなく、それっぽく動き始めたがぎこちないのだろう。降谷の顔が死んでいた。死んでいたというより、見込みがないと顔に書いてある。
「おまえは馬鹿か」
吐き捨てるようにそう言うと降谷は勢いよく立ち上がり秀治の肩に手をやる。もう片方の手には腰にあてられ、秀治は息をするのもやっとだ。ぐいっと捻るように肩を押され、腰は肩と左右対称に持ち上げられる。心もとない腹筋に力が入った。
「体の構造を意識しろ」
そのままくるりと一周させられ、今度は左右対称でその動きを繰り返される。恥ずかしさに顔から火が出そうになる。それを見ていたのか降谷は意地の悪い声で囁いてくる。
「この程度で顔を赤くするなら、この先はのぼせるぞ」
悔しい。悔しくてたまらない。クインとアレンには素質があるかもよと言われていたばかりに、ここまで足蹴にされると悔しい気持ちが胸の奥から生まれてくる。こいつをあっと言わせたい。そんな思いで降谷のレッスンを受ける。
「これが基本動作だ。あとはクインたちから教わるといい」
三十分みっちり基本動作を教えられ、要領の悪い秀治は頭の中がごちゃごちゃになっている。忘れないように家に帰ったらメモしなきゃと思ってシャツに手を伸ばそうとすると、降谷が待ったをかけた。シャツを手からもぎとりソファの前に秀治を連れていく。
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