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第48話 二回目のXデー

「シュウ。こっちこっち」  胸のはだけたベストを着込んだアレンが厨房の端っこでショーを眺めていた秀治を呼ぶ。アレンはショーの出入り口からそっと抜け出して秀治にぼそっと呟いた。 「ここのところ毎週末来てるよ。唯斗さん」  今日はいつもとは違うソファ席に座っているらしい。どうりでいつもは感じる熱い眼差しを覚えなかったものだ。  秀治は目線をソファ席に足を組んで優雅に座る男性に注ぐ。ストリップショーの真っ最中だというのに、その一角だけはイギリスのお屋敷みたいに品がある。唯斗の持つ独特な雰囲気のせいだ。薄茶色の瞳と艶のある黒い短髪はまるで王子様みたいだとクインが言っていたっけ。ステージの真ん中で踊っているクインを見ながらそんなことを思い出す。クインが動くたびに縛った金髪が蛇のように妖しく揺れる。それがまたなんともいえない色気を生む。少年のような顔立ちの男の色魔の顔が浮かぶようなダンスに、客は唾を飲み込んで見入っている。さすがナンバーワンだ。あんな魅力をはたして自分は持っているのだろうかと秀治は不安になる。性的なことには疎い自分が色気のある振り付けを覚えられるのか。最近クインやアレンから個人指導を受けるようになって、そんなことを思うようになった。 「唯斗さんはさ、大抵のキャストにはお札積んでくれるんだけど最近はめったに積まなくなったんだよね。シュウがステージに立つのを待ってるんじゃないかな」  待っている。こんな自分を待っていてくれる人がいる。その事実が歯痒くて浮き足立つような気持ちになる。 「でも、俺まだまだだし。そのうち新しいお気に入りでも見つけるんじゃないかな」  へらりと笑ってみせるとアレンは少し怒ったようにむっと顔を顰めた。アレンが怒るなんて珍しい。そう思ってすぐに謝ろうとしたがぷんぷんと怒って去ってしまった。

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