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第51話
「一度もシたことないなら、まあこうなるよね」
クインが髪を指でくるくる回している。アレンは静かに笑った。
「じゃあ、シてみればいいんじゃない?」
そう言った瞬間、クインの目がきらきらと輝く。ああ、余計なこと言っちゃったかなとアレンが秀治に困り顔を見せるが時すでに遅し。
「唯斗さんに抱かれちゃえー!」
「お、おいっ」
クインとアレンに連行されて店まで連れてこられたということだ。
「じゃあ僕、義則さん探してくるから。終わったら感想聞かせてね」
お茶目に笑って颯爽と店内を歩いていくクインを止められず、秀治はアレンと共にバーカウンターの前で突っ立っていた。
「嫌なら嫌って断れば、無理やりはしてこないと思うよ」
あははーと苦笑いを浮かべてアレンが目を泳がせる。そんな、心の準備だってできてないし。それに俺、男相手に勃つのか? ぐるぐると果てしない疑問が頭の中を泳いでいく。
女の子とも、男ともしたことがない自分はどんな反応をするのか。知ってみたいような、知りたくないような気持ちで揺れているとアレンは拓馬を見つけてどこかへ行ってしまう。ほんとうに一人になってしまった。はぁ、と溜息をついて店内を見渡す。店内にはまたジャズの軽やかな音が流れ始め、各々が混じり合っている。ソファで、カウンターで、あるいは床の上で。普段の店には男性客だけではなく女性客もちらほらといるのだが、Xデーは女性禁止らしい。ここに来る前にアレンが説明してくれたことを思い出す。キャストは皆ゲイだよと。この店で唯一ノーマルなのは、ダグ店長ぐらいだとも。ダグは日本人女性と結婚していて子供が一人いるらしい。パパさんなのにも驚いたが、ここにいるキャストが皆ゲイだということに度肝を抜かれた。
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