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第53話

「ほんとうは今すぐにでも襲いたいくらい可愛いけど、嫌われたくないから無理やりはしたくない」  そっと体を離して唯斗は呟いた。あわあわと口が開く。うまく息が吸えない。緊張してるんだ、俺。 「あ、あの。その、俺こういうの初めてで……なにもわからないっていうか」  しばらくの沈黙。まずいことを言ったかなと唯斗の顔を見ていると、彼の瞳の瞳孔がゆっくりと開くのがわかった。 「それ、襲ってくださいって言ってる?」 「ち、違っ」  両手を押さえつけられ首筋に顔を埋められる。くすぐったい。そう思って体を揺らすと、唯斗はがっちりと体を押さえてくる。 「ねぇ。今からここでするのとホテルに行くのどっちがいい?」  カッと身体中の熱が頭にのぼる。思考停止していると頭をぽんぽんと優しく叩かれた。 「嘘。意地悪言ってみたかっただけ」 「えっ…あっ…う……」  いつから赤ちゃん言葉しか話せなくなったんだ俺。喝を入れて背筋を伸ばす。ちゃんと自分の口で言わなきゃ。 「……興味はあるけど、一度に全部は身体が持ちません」  言ってやったぞ。ふと、何故か降谷の顔が頭に浮かんでぶんぶんと首を横に振った。なんであいつの顔が浮かぶんだ。今はすぐそこに唯斗がいるというのに。 「そっか。じゃあ、ゆっくりならいいんだね?」  噛み締めるようにそう言うと唯斗は秀治の肩を持って一番端の暗がりになっているソファに連れて行く。まわりの絡み合う男たちはそれぞれの行為に没頭していて気にする人は一人もいない。 「まずはスキンシップから始めようか」  王子様みたいに唯斗は秀治をエスコートしながら手をとる。恭しくその手にキスを落とされた。たぶんクインがこれを見ていたら発狂するんだろうな。他のことを考える余裕を与えないというように、唯斗は秀治の顔にキスを落としていく。耳たぶは少し噛んで、首筋は少し吸って。

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