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第59話
「レン。おまえ今日夜番だろ。これやるよ」
そう言い放つとジャルウは黒い手から金色の包みを取り出した。ジャルウの丸い目と視線が交わる。
「どこからくすねてきた」
冷たい声で言い放つとジャルウはけたけたと笑う。
「そんなもん、国連の食糧庫からに決まってんだろ。俺たちは仕事してるんだ。飴玉の一つや二つ気にしねぇよ」
降谷はこの口の減らない兵士に殴りかかりたくなった。しかし、問題を起こせば本国に帰る日がまた伸びてしまう。この男とは意見の相違からこの地で何度も掴み合いの喧嘩をしたことがあった。
飴玉を握りしめて身なりを整える。兵帽を深く被り自軍のテントから抜け出して、先程連れてきた一家の元へ向かった。
「無事に入れたか」
「ありがとう。ありがとう」
英語はそれしかわからないらしい。しきりに感謝を述べてくる家族の一番年上らしき男に飴玉をやる。
「おまえがこれから家族を守れ。ここも安全とは言えない」
近くにうろついていた国連の通訳士を繋いで親子にそう言うと、来た道を戻りキャンプ内を練り歩いた。
キャンプの中でも残念ながら物取りやレイプは頻発している。そうならないために臨時テントや地べたに集団で座る彼らの行動をチェックしているのだが、ずる賢い奴らはいとも簡単に穴を見つけて犯罪を犯す。降谷はそんなクソみたいな人間が大嫌いだった。一度それを見つけた時には腹を殴って半殺しにした。国連職員や兵員に見られていなければいい。悪は葬らなくてはならない。それが降谷の信条だった。
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