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第60話
辺り一面真っ暗になり、一番緊張する時間がやってきた。夜間の外出はキャンプ内では禁止されているため、昼間は騒々しかった内地も海のように静かだ。夜は特に見張りの者の重圧は強くなる。昼番だったジャルウは今頃軍のキャンプの中で寝袋にくるまってぐっすりと眠っている頃だろう。
この地にいると時間の感覚が狂っていく。降谷の隊はこの難民キャンプの監視と防衛。それと、近くの廃墟となった街から生存者を探してキャンプに連れ帰るという任務を負っていた。いつ武装組織が戦車を走らせてくるかもわからない。昼でも夜でも命の危険はあるが、やはり夜の方が危険だ。山岳民族である彼らは音もなく近づいてくる。壁を立てるまでは小さなトラブルがいくつも起きていた。自爆装置を見にまとった子供がやってきたり、カーテロをしにきた老人がやってきたり。彼らも死に物狂いなのだ。祖先の地を守らんとすべく、宗教や民族を理由に自らの一族を守ろうとしている。
「レン! こっちに」
隣の物見小屋の上にいたザックが手招く。夜間コープをかけたまま、すり足で近づいていく。何かトラブルが起きたのかもしれない。
「あそこ、見てくれ。なにか動いてないか?」
無線機を片手にいつでも連絡できる体勢でザックが呟く。コープの尺度を変えてなるべく近くして覗いてみる。たしかに、月の光に照らされてもぞもぞとした陰が蠢いているようにも見える。
「一応隊長に連絡しておいた方がいいな」
「わかった」
素早く無線のボタンを押して緊急時のサイレンが流れる。ブオオオンと鳴り響くサイレンに目を覚ましたのか、内地が騒めき出した。サイレンが鳴るということは、敵にも気づかれるということ。捨て身で攻撃してくるかもしれない。降谷は自分の持ち場につくと、陰に銃口を向けた。
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