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第64話
「おまえは楽に死ねると思うな」
泣き続けるザックに吐き捨てるように言う。ジャルウが無抵抗な肉の塊となったザックを連れて物見台に縛り上げる。いつのまにか砂漠の地平線から赤い太陽が顔をのぞかせている。一時の方向には倒れた人陰の塊があった。戦車を使うまでもなかったらしい。
「謀反者を捕まえました」
ジャルウが無線でそう伝えると、隊長の声が無線から飛んできた。
「十名全員確保したと近くの兵に伝えろ。内部テロは阻止した。壁を閉じろ」
件の事態に関して、翌日知らされたのは先週取引した食糧と人質交換の際に、兵士が皆洗脳されたということだった。彼らは軍事裁判にかけられ、本国で刑期を全うすることになる。
髭を生やした隊長が降谷のことを呼びつけた。軍会議が行われる大きなテントに足を運ぶ。
「よくやった。任期一年でよく敵を殺さなかった」
褒められているのだろう。隊長は敬礼したままの降谷に椅子に座るように促した。それにならって座る。
「大抵の若い者は興奮して殺してしまうところだが……生きていなければ罪を償わさせることはできない」
「はい。そのとおりです」
士官学校で耳にタコができるほど説明されたことだった。殺してしまえばそれで終わりだと。次の芽を摘むことなく消してしまうと。
「そこでだ。君には最前線に属してもらうことになった。わたしの推薦だ。文句はなかろう?」
「はい。身に余る名誉です」
内心はそうじゃなかった。また、死ににいくのかと少し背筋が凍った。しかし俺は軍人だ。国のために命を捧げるのを拒否することはできない。
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