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第68話

 その社長と柳瀬にどんな関係があるかは探りはしないが、おおかた恋愛がらみだろうということは想像がつく。社長である田邊は男漁りの激しい暴君で、何人も泣く人間を見てきた。中には仕事を辞めた奴までいる始末。仕事は超がつくほど要領がいいのだが、人柄に問題がある。世界の中心は俺だと言わんばかりの自信家なのだ。この会社に入社したての頃は新入りのくせに生意気だと言われて何度もホテルに連れ込まれそうになったが、趣味ではないので無視をした。元米兵という肩書きに妙な期待をしていたらしく、あっちのほうも上手いんだろとかなんとかセクハラまがいの扱いを受けたこともあった。しかし、頑なに親密になることを降谷が避けるので問題は起きていない。 「すみません降谷さん。これ、インドの件で……」  昼休憩を挟んだ午後の業務中に柳瀬がやってきた。至極申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げる。押しに弱い日本人男性という言葉がぴったりだと降谷は思った。 「柳瀬。ちゃんと新人には指導したのか? 日本の物流会社の調整くらいおまえならミスなんてしないだろ」  はぁ、申し訳ありません。と気のない返事をするのでついに降谷の堪忍袋の緒が切れた。

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