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第72話

「なんでもレンの会社のお得意様だからね。そりゃたくさん弾んでくれると思うよ」 「やったぁ」  伊織とクインが嬉しそうに手を繋ぐ。アレンはやれやれといったふうに二人を眺めた。 「シュウもほんとはショーに出て欲しいんだけど、急だと難しいかな?」  もちろん厨房もお願いするけど、とダグが断りを入れてきた。秀治は予想もできなかったお願いに頭を悩ます。 「やっちゃおうよシュウ! そんで、蓮さんにも見せてやんなよ。今じゃもうこんなに踊れますよって」  クインのはしゃぎっぷりに伊織も同調する。 「シュウくんと踊ればチップがたんまり……」  同じ日本人キャストのシュウと踊ればさらにチップが弾むと考えたのか、伊織の顔が綻んでいく。目がお金になってしまっている。後にクインから聞いた話だが、伊織は大学の授業料などを自分で納めているらしい。そのためにここで働いているのだとも。ゲイで派手な格好が好きな自分にはシャイニングムーンがぴったりだとクインに話したらしい。  秀治はふと、降谷の顔を頭に思い浮かべた。審査の日まであと一週間。もしかしたらこれはチャンスなのではないか。降谷をあっと言わせて、驚いた顔が見れる絶好の機会。ぐっと拳を握りしめ噛み締めるように言葉を吐く。 「やってやるよ! あいつに俺のこと認めさせてやる」  わーい、とクインと伊織、アレンの三人からもみくちゃにされる。まるで自分のことのようにショーデビューを喜んでくれる友人たちを見て心があたたまる。 「じゃあ早速、シュウは仕込みを頼むよ。クインは他のキャストに出れないか聞いてみて。アレンと伊織はジャパニーズっぽい衣装を買ってきて」  一万円札をがしっと鷲掴みにして二人に手渡すと、ダグは秀治とともに開店準備を始める。クインはソファに座ってキャストに電話をかけ始めた。波乱のひと夜が始まりそうな予感に秀治は胸を躍らせた。降谷に一泡吹かせてやる。その気持ちがじわじわと溢れてきた。

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