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第76話

「シュウ。カワイイ」  褐色の手でアヴェラ氏が秀治の頬に手をかける。ぽっと頬を染めたいじらしい姿を気に入ったのか、長身でそこそこハンサムなアヴェラ氏は秀治の肩を抱いて席に戻ってくる。 「フルヤも見てみなよ。こんなにカワイイ子日本にいるんだね」  口説きモードでアヴェラ氏が秀治の頬にキスをする。それがなぜかもやもやと心の中で疼いた。秀治も秀治で嫌そうな顔はしない。正面のソファの上でアヴェラ氏の上に跨った秀治は降谷に見せつけるように腰を振る。目だけは降谷を見つめていた。はだけた和服の隙間から桃色の胸の突起が見える。それを見てしまってから目を逸らした。自分でもわからない。見てはいけないと思ったのだ。 「可愛いー」  と隣でヒューヒューと叫ぶ大酒飲みの杉山を一瞥して頭を抱える。もっと、違うはずだった。予想を上回るダンスに言葉が出ない。 「アヴェラさん僕も」  そう言って田邊とアヴェラ氏の間に伊織が割って入ってくる。それを機にキャストたちがわっと周りを取り囲んだ。アヴェラ氏は満面の笑みで両手に花状態だ。  降谷の前にはなぜかクインがやってきて、慣れた手つきで頬に手をやってきた。 「すごい進化でしょシュウ」  耳元で言い放つとぎゅうっと体を抱きしめてくる。離せ、と言ってアヴェラ氏の方へ誘導すると秀治と目があった。してやったりという満足げな顔でこちらを見つめてくる。そんな顔もするようになったんだな。少し、ほんの少しだけ感慨深く思う。 「伊織とシュウキスしてよ」  音楽が鳴り止まった瞬間の出来事だった。アヴェラ氏がソファで絡む動きをしていた伊織と秀治にそんなことを言ったのは。

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