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第77話
伊織はすぐさまキスをしようと秀治の顔を支えたが、秀治はやめろよというように顔をそむける。その直後だった。
「んむっ……」
降谷はそれを静かに見ていた。アヴェラ氏と秀治のキスを。
おおー、と側で見ていたアレンが声を漏らす。アヴェラ氏は口を合わせるだけでは物足りないのか、秀治の口内を割って入ろうとする。拒否するなよ、とそんな目で見ていると秀治と目が合った。戸惑うような瞳の中で、強い決意が現れたのを降谷は見逃さなかった。
「ん……っ」
積極的に秀治がアヴェラ氏にキスをする。舌を出し入れする二人をずっと側で見ていた。
長いキスが終わる頃には秀治は酸欠になっていた。クインとアレンが引きずりながら秀治をステージの裏手に連れて行く。宴も終わりに近づいたのを悟ったのか、伊織以外のキャストは裏手に戻っていった。
よしよしと頭を撫でられている伊織だけがアヴェラ氏の隣に座っている。
酒の切れた杉山からiPadと資料を受け取り、綺麗に拭かれたテーブルの上に出す。田邊がそれでは商談を、と声をかけてアヴェラ氏も仕事モードに切り替わる。伊織の背中を押して、降谷を見つめてきた。伊織は静かに席を立ちステージの端へと戻っていく。
「御社のバナナ農園の需要は今後今以上に高まることとなり──」
商談は大成功を収めた。アヴェラ氏を都内の三つ星ホテルまでタクシーで見送ると、やっと肩の荷が降りたような気がした。降谷と杉山と田邊の三人は今日の商談場所となったシャイニングムーンへ再び足を運ぶ。
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