78 / 215
第78話
「カンパーイ」
杉山の音頭でお疲れ様会が始まる。田邊も緊張していたのか、普段の俺様モードに戻り出している。
「いやぁ、よかったよ降谷くん。この店も、ダンサーも、商談も」
酔いの回った瞳で見つめられるが動じることはない。田邊はそういえば、と降谷をじっと見つめてきた。
「あの子、ショーデビューの子。よかったよ」
キッと睨むがそんなものへでもないと言わんばかりに笑われる。
「おまえのその顔。初めて見たよ。気に入ってるんだな」
ふっと鼻で笑う。そんなはずはない。気に入ってなど、いない。
「じゃあ俺、もらっちゃうよ」
杉山とダグが冗談を言い合う呑気な空気の中で田邊のその言葉が浮遊する。降谷は目を伏せた。
「別に。俺に聞かなくてもいいでしょう」
田邊はにやりと口角を上げる。意地の悪い顔だとすぐ隣で思った。タチの悪い笑み。そういうのが降谷は好きではない。
「店長。さっきの子。シュウくんだっけ。呼んでくれない?」
こいつ本気で言ってるのか。少し目を見開くがそれも数秒のこと。何を気にしているんだ俺は。それはあいつの勝手だろう。
「シュウ!」
ダグの大声が店内に響く。疲れた頭にキーンと響いて降谷はこめかみをさする。テキーラショットを三杯も飲んだのが間違いだったのだろうか。頭がくらくらとしてきた。
「はい。なんですか」
少し高い、まだ少年のような声で秀治が答える。三人が座っているバーカウンターの前で秀治が身を乗り出した。降谷の前にある空になったテキーラショットのお代わりを入れているのだろう。降谷の視界が霞む。今日は疲れた、ほんとうに。田邊が隣で何かを言っている。それを聞いた秀治は頬を紅く染めている。
ともだちにシェアしよう!

