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第80話 変化の足音
「シュウ。唯斗さん最近見かけないね」
クインがつまらなそうに言葉をこぼした。そうなのだ。ここ二週間ほど唯斗の姿を見ていない。少し心配していたところだった。
タコの唐揚げを盛り付けながらおぼんを持ったクインを見る。今日もまた派手な格好をしている。夏だからという理由で海パン姿だ。もちろん、女性のランジェリーのような心もとない短さの。
「忙しいんだろ」
そっけなく答えると、秀治ってば素直じゃないなぁと頬をつままれた。地味に痛い。
「別に、あれから一度もショーに出てないし。蓮さんからも連絡ないし」
あの波乱の夜から二週間経っても降谷からの連絡はなかった。審査のことを忘れてしまったのだろうと放っておいたが、あのキスだけが妙に気になって仕方がない。ダンスがやはり見るに耐えなかったのだろうか。クインとアレン、そして伊織からは絶賛されたが、当の審査をする本人からは褒められも怒られもしない。無視されているようでなんだか気に食わなかった。
審査の日に備えて何度も練習してきたのだから、それを無下にされたようで気分が悪い。
「Xデーも来週だしね」
ひょこっとアレンがバーカウンターから身を乗り出してそう言う。また来る? と聞かれて、秀治はうーんと言葉を濁す。
「まだ最後まではしてないんでしょ?」
提供を終えたクインがにやにやと笑いながら秀治を見てくる。そうだけど、とそつなく返事をして皿洗いに戻った。
唯斗と触れ合うのは気持ちが良かった。心が満たされるような気がした。これが、好きという気持ちなのかはまだわからない。ただ唯斗のことを気になっているのも事実で、現に今も店内に唯斗の姿を探してしまっている。
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