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第81話

 Xデー当日。再びクインに半ば引きずられるようにして店に連れていかれる。店の中には既にキャストと客の姿があった。このXデーに参加できる客はよほどの太客か、キャストが許可を出した者のみだ。この日のモットーが性欲の吐き出しをしようというストレス発散のようなものなので、来る客も皆それ目当てで割り切っている。 「あ、義則さーん」  少女のように軽やかに男のもとへ駆けて行ったクインを見送り、定位置になってしまったバーカウンターの隅で唯斗がやってくるのを待つ。別に約束なんてしていないし来る保証もない。けれど、待ってみたいような気がしてこの場にやってきてしまったのだ。アレンは拓馬と呼ばれた男とともにホテルに連れ立ってしまった。アレンの客の中で一番古株で何年もこうした関係を持っているらしい。今日はアレンのショーデビューから六年経ったお祝いをしたいと高級ホテルに呼んだのだという。  クインは相変わらず猫目をした義則という男と戯れあっている。その顔が本当に幸せそうで自分のことのように嬉しくなる。甘えたがりのクインにちょうど釣り合う義則という大人の色気を醸し出している男。日本人にしては背も高く、身綺麗で高く通った鼻筋が顔の印象を大人びたものにしている。歳は知らないが二十代半ばから二十代後半といったところだろう。ぼんやりと他人の詮索をしていたところに、背後から忍び寄ってくる気配を感じた。

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