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第84話 R18
「ふっ……ん……」
口を合わせた瞬間に深いキスが始まる。予測できない動きに振り回されていくようで、秀治は唯斗の肩にぎゅっとしがみつく。頭がぼんやりとしてきた。
「可愛い」
恥ずかしげもなくそう耳元で呟かれて、嬉しくないわけがない。この人なら大丈夫だと信じてみようと思った。
しばらくそうしているうちに、ピロリーンとお湯が沸いた音が部屋に響いた。始まるんだなと秀治は左手首をそっと触れた。全部見られてしまう。体の醜い場所から恥ずかしい場所まで全部。驚かせたくない。だから、自分の口から言おう。
「あの、唯斗さん。俺……」
ん? と優しく言葉を待ってくれる姿にほっと胸を撫で下ろした。きっと大丈夫。この人ならきっと受け入れてくれる。
シャツのボタンをゆっくり外していった。見られている。恥ずかしい。怖い。ぐるぐると頭が回る。左手首のシャツを抜き取り、唯斗の前に手の内側を見せる。空気が張り詰めたのがわかって、秀治は下を向いた。
「これ……」
そっとその手を唯斗に取られる。不安げな瞳が揺れている。そんなに悲しそうな顔、しなくていいのに。勝手に俺が傷つけただけなのに、どうしてそんなに悲しそうな顔をするのだろう。
「昔の跡なんだ。今はしてない。けど、気持ち悪かったら隠すから……」
じっと傷跡を見つめられる。何を言われるのか恐怖で足がすくみそうだった。でも、言えた。自分の言葉でちゃんと伝えられた。
「あっ……」
すると唯斗は静かに秀治のリストカットの跡に唇を押し付けてきた。慈しむような口づけに胸がこそばゆくなる。
「じゃあ俺がここも初めて見る男になるんだね」
妖しい瞳にくらりと崩れてしまいそうになる。ああ、やっぱりこの人ちょっと変態だ。でも嫌な気はしない。この人になら全部見せてもいいと思えた。
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