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第91話 引き裂かれた日 (side 降谷)
【第二部】
砂埃の舞う灼熱の大地の懐に降谷はいた。イラクの武装組織との最前線の紛争地帯ブリャタス地帯。雨季の早雨はからりと上がり、赤道直下の日差しがじりじりと後頭部を焼いていく。日焼け止めを塗らなれければ真っ赤に腫れ上がり皮膚が傷んでしまうだろう。
常に緊迫した空気の中を小隊ごとに移動する。米軍基地から一キロもない山の中にイラクの武装組織「ジュダーン」の根城はある。小高い山岳に作られた要塞を攻略することは未だできていない。幾重にも巻きつけられた鉄条網が行手を阻んでいる。本国アメリカからやってきた戦闘機だけが頼みの綱だった。歩兵や戦闘車では登ることのできないほど険しい山々。この地に生まれた彼らにのみ、大地は道を譲り渡す。
「レン。物資の補給の時間だ」
小隊長のグレイスが無線を片手に声をかけてくる。降谷は空挺部隊の待つ格納庫へと向かった。一ヶ月に一度、食糧や日用品が届けられる大事な日だ。もし受け取り損ねでもしたら、降谷たちは生きてはいけない。細心の注意を払って戦闘機が降りてくる。敵の戦闘車で撃ち落とされる可能性も少なくはない。
すばやく機内に乗り込み、物資を受け取る。ものの三十分で荷物を受け取ると戦闘機は本国へと戻っていく。この時間が一番緊迫している。最前線に張られた戦闘車両の砲丸が山岳に向けて固定されている。固定砲と呼ばれるそれは、真っ黒な弾口を向けて発射の合図を待つ。
赤旗が降られた。地響きのような低い音を上げて、固定砲が進む。百メートルも前進したところで、白い旗が掲げられた。合図を受け取った戦車から弾薬を詰め込み始める。
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