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第94話

「ハンズアップ!」  グレイスが両手を上げるジェスチャーをしながら少年に向かって叫ぶ。少年はぐっと両腕を上げた。降谷は隊員たちとともに車内の様子を伺う。他には誰の姿もないらしい。ひとまず、少年の体を叩いて下に何か隠し持っていないか確認する。上着を開き、薄い胸が露わになる。ズボンも下ろさせ、グレイスは下着の中も覗いた。ゆっくりと頷く。今回は爆弾を身につけていなかったらしい。少年を保護して固定砲の前に連れてくる。車は動かないままだ。車だけ爆発する可能性も踏まえて戦車で砲撃する。少年の耳を塞ぎ、地べたに這いつくばった。ドオオンという地響きとともに車が炎上する。そしてキリキリと乾いた音を立てながら煙を吐いた。そのまま上に向かって爆発する。熱風が降谷の鼻先を掠める。ガソリンの匂いとともに。  軍師長が少年に話しかけている。真っ黒な瞳で少年は話に受け答えている。その様子におかしなところはない。 「レン。こっちに連れてこい」  グレイスにそう言われて、少年を軍のキャンプの中に連れて行く。行き先は言われなくてもわかった。オルビオ首長のところだろう。  基地の中でも最も中心にあたる場所に要人の滞在施設はあった。合板で立て付けられただけの小屋のような建物だが、それでもここでは一番安全な場所だった。  オルビオ首長は保護できるなら敵の内情を知るために、実際に話を聞きたいと常々口にしていた。この少年と会わせるにはいささか早計だと思ったが、上の指示には逆らえない。少年の肩を掴む手に力が入る。すっと、少年が降谷を仰ぎ見た。邪気のない瞳でじっくりと見定めるように。共についてきた軍師長が歳を聞くと、十五歳と返ってきた。ジュダーンの兵士の中では幼いほうだろう。十二歳から十九歳までの子供をジュダーンは少年兵として敵の偵察や自爆テロに送り出しているのは集めたデータでわかっていた。

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