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第98話

「そこの米兵。おまえはずいぶんと落ち着いているな」  訛りがかった英語で顎を掴まれる。人質にとられた状況の対応はしっかりと頭に入っている。まずは抵抗しないこと。次に、同調すること。降谷はそっと目を伏せた。自分は無能な米兵だと言わんばかりに。 「正直に言うと殺されるのがわかっているから、もう何も恐れてはいない」  ゆっくりとはきはきと喋るとイヴァンは大笑いをする。周りの取り巻きも下品な笑い声をあげた。 「こりゃあたまげた。あんたと違って優秀な米兵だ。何人殺してきた?」  イヴァンはオルビオを足で蹴りながらそう聞いてくる。見殺しにしてきた者も加えれば五十人は超えるだろう。ゆっくりと被りをふる。 「覚えていない。俺は今しか見ていない」  がははっと喉に痰が絡まったような笑い声で降谷の髪を掴んでくる。 「アメリカの男は肝が据わっている。オルビオ。おまえと違ってな」  放心したように動かなくなったオルビオ首長をもう一度蹴り上げる。ゆっくりとその皺がれた体が浮かび、床に落ちた。 「イルハムは良い土産を持ってきたな」  イヴァンは毛がぼうぼうに生えた手で降谷の胸元を掴む。 「こいつは俺が遊んでやる。イラクに来たことを後悔させてやろう」  再び目隠しを巻かれ、男たちに引きずられて行く。五、六メートル先の別室に放り投げられた。 「興味があったのさ。おまえたち米兵のこの引き締まった体がなぁ」  ラマの匂いがする唇で頬をべっとりと舐め上げられる。 「おまえ雌くさい匂いをしてるな」  乱暴に兵服を脱がされて上半身が露わになった。降谷はただ壁の一点を見つめている。

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