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第99話

「米国にはこんなに若くて美味い肉がごろごろ転がっているのか」  恍惚とした笑みを浮かべてイヴァンが降谷の肩に手をかける。それに動じずに降谷は目を閉じた。それが気に入らなかったのか銃の背中で頭を叩かれる。ゴンっという鈍い音がこだました。こめかみにじんわりと血が垂れてくる。 「おまえたちもよく見ておけ」  いつのまに現れたのだろう。ぞろぞろと部落の人間が狭い部屋の入り口から顔を覗かせてくる。その瞳に睨まれたように体が硬直した。嘲笑うかのようにこちらを見つめてくる。そこには憎悪や、好奇心で満ち溢れている。何もおかしいことはない。米兵は突如この地に舞い降りた悪魔のような存在だ。すぐに殺されないだけましなのだろう。  ぬっと、複数の手が降谷の体に伸びてくる。乳臭い臭いが鼻を掠める。毎日風呂に入る文化を持たない彼らの体からは人間の生活臭がぷんぷんと臭ってくる。堪えきれずに空嘔吐をしていると、履いていたズボンを降ろされる。手首を後ろで縛られているせいで抵抗はできない。  異国の男の身体に興味を持った男たちにいじくりまわされる。不快感が全身を覆った。レイプされるのは時間の問題だった。覚悟を決めて心を鬼にして耐える。乾燥した指に全身を撫で回される。高い出窓からの光だけがこの部屋の光源だった。青白い闇の中で獣が蠢き出す。 「さぁ、やれ。おまえたちの怒りをこの男に知らしめてやれ」  イヴァンの号令で男たちの剛直が降谷を貫いた。全身を噛まれ、愛撫され、視界がぐらぐらと揺れる。不思議と悲しみは感じなかった。こうなるのも全部自分の選択の結果だと理解していた。米兵になってこの地にやってきたのも、イルハムの意図に気づけなかったのも。全部俺が悪い。誰のせいでこうなったのか一目瞭然だ。全ては俺の選択で、その結果がこれだというだけだ。

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