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第102話
途中で意識を失ってしまったらしい。降谷は硬い石の上で横たわっていた。昨晩の名残がまだ身体中にまとわりついている。頭を抱えて、後孔に手を滑らせる。まだ濡れている。血と白い精液とでピンク色に混ざっているそれを近くに置いてあった自分の兵服で拭き取る。軋む体を叱咤激励して服を着込む。殺されるなら、今日だろう。昨日殺されなかっただけでも幸せというものだ。
部屋の外から子供たちの遊ぶ声が聞こえた。こんな世界の片隅でも子供たちの笑い声は明るく朗らかだ。それを耳に残しながら、部屋の周りを歩く。がっちりと頑丈そうな木の扉があるせいで外は見えない。ギイっと立て付けの悪い音を出しながら扉が開いた。イルハムがナザルと呼ばれる薄く焼いたパンのようなものを持ってやってきた。
「朝飯だ。食え、米兵」
ゆっくりとそれを受け取り口に含む。約半日ぶりの食事に腹が鳴った。死の淵にいてもなお腹は減るらしい。嘲笑するような声を漏らしているとイルハムがじっとつぶらな瞳でこちらを見てきた。
「父さんにやられたの?」
そうか。イルハムはイヴァンの子だったのか。ふっと首を横に振る。なぜか笑えてきた。昨夜犯してきた男の子供に飯を与えられている。くっくっくっと喉から笑いが込み上げてきて食事が喉を通らない。少年の施しに自分の情けなさを感じていると、イルハムが羊の腸で作った水の入れ物を渡してくれた。それをがぶがぶと飲み干す。
「首長はまだ生きているか」
だめもとで聞いてみると、イルハムは素直に頷いた。
「今日、処刑するんだ。あんたは当分生かすって父さんが言ってた」
目元がたしかにイヴァンに似ている。あの男も幼いときはこんなに透き通った瞳をしていたのだろうか。
「そうか……」
「どうして喜ばないんだ? おまえ殺されないんだぞ」
なぜ? という目でじっと見つめられ降谷は目を逸らした。昨夜のことは子供に話すようなことではない。
「強いて言うなら、俺の仕事は首長を守ることだからだ。俺の命は首長のためにある」
わかるか? と聞いてみるとイルハムは首を振った。まだこの年頃の子供にはわかるはずもない。
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