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第106話
唯一降谷を癒したのが、ダグの店の料理とストリップショーだった。アメリカと日本両方の家庭料理は味もさることながら、キャストのレベルも高い。
ダグと出会ったのは、日本に来てすぐのことだった。たまたま仕事の会食で居合わせたダグと話が合ったのだ。当時、ダクは日本料理店の割烹屋で見習いをしていた。幼い頃から日本に憧れ、語学留学をしたのがきっかけだという。それ以来、日本の定食屋のバイトで知った日本食に興味を持ち、さまざまな親方の元で料理人として働いてきたのだという。そんな彼が自分の店をオープンすると報告してくれたとき、とても誇らしかったのを覚えている。ストリップショーはアメリカでも何度か見に行ったことがあった。そんな|下《しも》の話になると、ダグは少し恥ずかしがって言葉少なになるのだが日本に住む外国人の男の子たちに仕事を与えられたらと、降谷の話を聞いてストリップショーを併設することになったらしい。
開店から三年も経つと、この辺りでは有名な居酒屋バル・ストリップショークラブになった。降谷はたびたびその店に足を運んで自分なりにストリップのダンスをキャストに教えていた。それから、キャストたちには蓮さん蓮さんと慕われるようになり今に至る。
時刻は朝方の四時半だった。もう一眠りしようと目を閉じる。ふと、あいつの顔が浮かんだ。初めてのショーで降谷の予想を遥かに上回るダンスを披露した秀治のことだった。今頃ベッドでぐっすり眠っている頃だろう。あいつが飛び降りた場所になぜ待ち伏せなんてしたのだろうかと、たびたび逡巡することがある。そのときの気分だった。それに尽きるのだが、命を粗末にしてほしくなかったのだと今なら思う。自ら命を投げ出す者をたくさん見てきたせいだろう。つい、手を伸ばしたくなった。暗い瞳をしたあの少年少女たちと同じ虚な目をしていたあいつを。
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