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第108話

「もちろん、付き合ってるのは内緒にしないといけないし、仕事とプライベートは分けるべきだと思うけどね」  アレンがそう釘を刺す。二人ともプロのダンサーなんだなと思う。あの日、ステージに立つのは楽しかった。純粋に初めてしっかりと浴びるライトも、ダンスも、全てが新鮮で楽しかった。降谷からはもう審査の日から一ヶ月も経とうとしているのに未だに連絡はない。唯斗も仕事が忙しいのかあの日以来会っていない。なぜか寂しいようなそんな気持ちになっていた。連絡先だけでも交換しておけばよかったと思っても後の祭りだ。唯斗とはあの日、すぐに別れてしまったから聞くのを忘れていた。 「そういえばさ、蓮さん最近店に来ないよね」  髪をいじりながらクインがつまらなそうに不貞腐れる。アレンもたしかに、と相槌を打った。 「仕事で忙しいだけだろ」  そうなのかなぁ。とクインがぶうっと頬を膨らませる。完全にいじけモードだ。サラミをつまみながら、降谷の顔を思い出そうとする。あれ、最近会ってないから顔がぼんやりとしか思い出せない。背筋がひんやりと冷たくなった。命の恩人の顔を忘れるなんて何様だ。そんな声が聞こえてきそうな気がしてしまう。 「会えないと寂しいよね」  アレンがワイングラスを傾けながらそっと呟いた。その目がとろんと揺れ始めている。 「アレンは拓馬さんとラブラブだからいいじゃん」  むうっとクインが突っかかる。いやいやぁと満更でもなさそうにアレンが笑う。 「拓馬さんも仕事忙しいって、最近電話もできてない」  辛いねぇとクインがアレンの頭を撫でている。恋人のことで頭を悩ます二人がなんだか微笑ましい。

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