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第109話
「そういえば、スタッフ旅行の班決めそろそろだよね」
スタッフ旅行? と秀治が聞き返すとアレンが説明を始めた。
「キャストとダグと蓮さんと皆で熱海の旅館に一泊二日するんだよ。今年はカニ食べ放題だって」
「蓮さんも行くのか?」
「もちろん。宿を押さえてくれるのが毎年蓮さんだから。そのときには会えると思うよ」
旅行か。行ったことないな。胸がうずうずとしてくるのがバレたのかクインにくいくいと肘で押される。
「旅行バージンかぁ」
「何でもかんでもバージンってつけるのはやめろ」
えへへと反省してない顔でクインがおどける。
「二人一部屋だっけ? 強制参加ではないけど、皆でぱーっと酒を飲んで美味いもの食って……楽しいよ」
アレンが昨年の旅行を思い出すかのように呟く。
聞けば、来月の頭の連休に店を二日間閉めて旅行に行くという。なんでも、旅費は全て降谷持ちでキャストとダグにとってはタダで遊べる二日間なのだという。
「特に露天風呂が最高でさぁ。熱海の海が一望できるんだよね」
アレンがしみじみと懐かしむように言う。
「俺も行ってみようかな」
ぽつりと呟くとクインがぎゅっと肩に手を回してきた。だから、いちいち近いって……。
「行こうよシュウ! 蓮さんと話すチャンスだし、夜は皆で△※○×!」
後半はアレンが叫んだピー音でよく聞こえなかったが、とにかく二日間思い思いに楽しめるご褒美デーらしい。キャリーバッグを買わないとなとぼんやり考えていると秀治の心の声を読んだのかクインが大きな声で言う。
「そうだっ。僕の余ってるキャリーバッグ貸してあげるよ。明日の仕事前に服買いに行こうよっ。旅行用の!」
それナイス! とアレンが答える。二人の間にもみくちゃにされながら秀治はふっと小さく笑った。こうやって、目の前に自分を大切にしてくれる人たちがいる。それが嬉しくてたまらなくて、気を緩めれば涙が出てきそうだった。
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