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第110話 スタッフ旅行START
迎えた一泊二日熱海旅行の当日。新幹線のホームで集合することになっていた。といっても、キャストは皆寮から一緒だ。昨夜から上機嫌のクインに手を引かれて駅のホームに到着する。すでにそこには降谷とダグの姿があった。乗車券をアレンが配り、新幹線が来るのを待つ。その間秀治はちらちらと降谷に目をやったが、ダグと話し込んでいるので声をかけられそうにない。
「アレン、シュウ! 隣に座ろう」
やってきた新幹線の車内でクインがアレンと秀治の肩に手を回す。三人横一列に並んで座った。初めて乗る新幹線に秀治は酔わないかなと、酔い止めを口にしていると二人に爆笑された。終始穏やかなムードで熱海に到着した。それぞれ部屋を割り振られる。伊織がくじ引きで決めたのだというが、秀治は降谷と同室だった。予想もしなかった事態に頭がくらりとする。
「海いこ! シュウ」
十二月の寒さもなんのその。クインとアレンに引きずられるようにして目の前に広がる冬の海の前に押し出される。さすがに足をつけることはないが、そっと指先で波を掴んだ。凍えるように冷たい。そして潮の匂いがする。
「こっちこっちー!」
クインとアレンとともに露天風呂に入る。夕食前の早めの時間帯のせいか客が少ない。ほぼシャイニングムーンのキャストの貸切で、広い檜の匂いのする湯船に体を沈める。秀治は手首にタオルを巻いて入った。親しい友人に見られるのはやはりまだ怖い。もしかしたら気づいているのかもしれないが、二人は真夏でも長袖の秀治を見ても何も言ってこない。それに救われていた。
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