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第111話

 温泉を堪能してから各々部屋で夕食を取ることになっていた。クインとアレンは同室らしく、なんだか羨ましくなる。杉の間と書かれた部屋に入ると、すでに降谷があぐらをかいて座っていた。浴衣姿がひどく似合う。静かに降谷の正面の平机に腰を下ろす。  降谷はスマホをいじっていて、忙しそうに見える。話しかけるタイミングを失い、秀治は目を泳がせた。なんとなく部屋の天井や壁を見ていると、ふっと軽く降谷が笑うのを気配で感じた。 「な、なんだよ」 「別に。なんでもない」  今日の降谷は気味が悪い。旅先で舞い上がっているのだろうか。こんなやつでも。 「悪かったな。審査の結果を伝えるのが遅くなって」  へ? と首を傾げると、降谷は目を伏せた。長い睫毛が揺らめく。 「合格だ。一応だがな」 「そうか……」  合格か。あっさりとした判定に構えていた体が緩んでいくのを感じた。俺、ストリッパーになれるんだ。この数ヶ月間みっちり練習した甲斐があったというものだ。達成感に満ち溢れていると、旅館の女将がやってきて蟹をまるごと使った料理をたくさん出してきた。蟹の味噌汁に蟹のわさび醤油付けに、まるごと蟹の足を何本も皿の上に乗せた特大盛。  目をきらきらさせて見入っていたのがばれたのか、鼻先で降谷が笑う。 「蟹の剥き方知ってるか」  また、馬鹿にしてくる。当然蟹なんて触ったことも食べたこともないので渋々教えてもらう。 「こうすれば身がすんなり出てくる」  そう言って目の前で殻を剥いていく。見様見真似でやってみるが、これが案外難しい。足を途中で折ってしまった。降谷ははぁっと深い溜息を一つつくと、秀治の後ろに回って指を掴んできた。思わぬ近さに体と顔があるのに驚いていると、集中しろと叱られる。

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