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第119話 溢れる想い

 腰の痛みで目を覚ました。後ろに残る感覚に悪寒が走る。昨夜のことを思い出すと悔しくて涙が溢れてくる。大嫌いな男に無理やり抱かれたことをひどく後悔した。いつのまにか布団の上で寝かせられていた。泣く泣く部屋のシャワーを浴びて昨晩の残香を洗い落とす。幸いにも尻は裂けていないようだった。まずはそれに安堵する。  降谷の姿は部屋にはなかった。時計を見るとまだ朝の六時前だった。朝食の時間にはまだ一時間ある。けれど食欲も失せてしまって、吐き気が込み上げてきた。昨晩の自分の乱れ姿を思い出しておえっと空嘔吐する。あんなの自分じゃない。あんな醜い姿が自分のはずがない。そう何度も心の中で呟いて服を着た。ぎしぎしと軋む体に涙が音もなく溢れた。どうして俺は弱いままなんだろう。自分の体を自分で守れないで。この半年間なにをしてきたんだろう。自分の不甲斐なさにぼろぼろと涙が零れた。  なぜ降谷は俺をあんなに手酷く抱いたのだろう。俺のことが目障りだと言っていた。心底俺のことが嫌いなんだろう。だからこそ、俺が幸せの絶頂にいるときに俺を傷付けた。心も体も全て。  俺はまだ降谷という人間の心根が腐っているとは思えなかった。俺を救ってくれた唯一の人という刷り込みが強いのか、疑うことができない。もともと感情を表すことの少ない人間だった。何を考えているのか見てわからない。唯斗さんとはなにもかも違う。唯斗さんは俺を壊れもののように扱ってくれる。あたたかい腕で俺を包み込んでくれる。降谷とは全然違う。

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