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第121話
熱海旅行から二週間経った金曜日の夜に、唯斗さんと再会した。
「なんかあった?」
出会って数分もしないで秀治の変化に気づいたらしい。バーカウンターに肘をつきながら顔を覗かれる。抹茶カクテルを練習していた秀治の手が止まった。
「別に、久しぶりに顔を見てどう反応していいかわからなかっただけ」
率直に言葉をこぼすと、そっかと微笑んでくる。ああ、ほんとうにいい笑顔をする人だな。
「連絡先教えてくれる?」
尻ポケットからスマホを取り出して連絡先を交換した。ふふっと嬉しそうに唯斗さんが笑う。
「つい最近まで仕事先がバタついててさ。これからは、また毎週来れるようになるから」
ジムビールをあおりながら、唯斗が言う。秀治は小さく笑った。
「なにか隠してるね」
全てを見通すような目で唯斗は秀治の目を覗き見る。薄茶色の瞳を前にしてすべて吐き出してしまいそうになる。それをぐっと堪えて笑ってみせた。うまく笑えているだろうか。
「俺の家おいでよ」
ふっと沸いたような歓声は客席からだった。ストリップショーの真っ最中だというのにバーカウンターだけは静かだ。唯斗は他のキャストに目もくれず秀治だけを見つめてくれる。こくり、と小さく頷くとそっと指先を絡められる。あ、これって……指切りだ。
「約束ね。今夜、家に来るってことでいいよね」
「うん……」
迷いながらもそう頷いた。唯斗はいつも選択肢を秀治に与えてくれる。その優しさにいつも心が震えていた。
秀治は唯斗と共にタクシーに乗って家まで向かう。銀座の一等地のマンションに住んでいるという。十五階建てのビルにけおされていると、唯斗に手を引かれた。軽く手を握られる。
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