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第122話
「上がって」
「失礼します」
ナチュラルウッドのインテリアで統一されたリビングに通される。こんなものでごめん、と昨晩の余り物だという肉じゃがを二人で食べた。ほくほくとしたじゃがいもににんじんのほんのりとした甘さが相まっておかわりをしてしまうほどだった。
しばらくは秀治の仕事の話や、唯斗の仕事の話をしていたがだんだんと唯斗との距離が近くなる。絨毯の上で体育座りをしていると、肩に手を回された。
「そんな顔しないで。キスしたくなる」
触れるだけの優しいキス。啄むように何度も角度を変えて繰り返されるそれを秀治は黙って受け入れていた。
「やっぱりいつもと違う。泣きそうな顔してる」
「唯斗さん……俺」
口をつぐんだ。何を言いかけているんだろう。こんなこと唯斗さんに話すべきじゃない。なのに、辛くて苦しくて溢れる思いが止まらない。
「唯斗さん。好きです。大好きです」
少しびっくりしたような顔をして唯斗さんが頬を撫でてくれる。
「困ったなぁ。今にでも襲いたくなるよ」
涙の溜まった目をぱしぱしと瞬かせて唯斗の胸の中に飛び込む。ここが俺の居場所。唯一の安心できる場所。
そんな秀治の頭を唯斗はよしよしと撫でてやる。初めてみせた秀治の甘え姿に口角がきゅっと上がる。
「泣かないで。俺はずっとシュウくんの味方だから」
その言葉に涙腺が崩壊した。ダムが決壊したかのように涙が溢れ出てくる。嗚咽を上げながら唯斗の胸で泣き続けた。
「だから、ね。今から魔法をかけてあげる。笑顔になれる魔法」
透き通った瞳の中には秀治しか映っていない。この人にならずっと見つめられていたい。そう思って頭を擦り付けると、脇の下に手を入れられた。こちょこちょと脇をくすぐられる。固まっていた心がふっと和らぐのを感じた。それと同時にむずむずとした歯痒さが全身を覆う。
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