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第129話 幸せな朝に嫉妬のしっぽ
「じゃあ今日も仕事頑張って。今日は行けないけど、また今度会いにいくよ」
白塗りの車の助手席でそっと頬に口づけを落とされる。シャイニングムーンの寮の前で唯斗に降ろしてもらうと、「待って」と声をかけられた。
「仕事先でもらったお菓子なんだけど、俺甘いの苦手だから」
「よかったら食べて」と秀治の手に押し込んでくるので、そのまま受け取った。紫色のリボンが巻かれている。女性がチョイスしたような菓子折りに少し不安を覚える。唯斗の仕事を秀治はほとんど知らない。職場にはもちろん女性もいるだろうし、いくら秀治のことを好きだと言ってくれてもきっと王子様みたいな唯斗のことを好いている女性は多くいるはずだ。それがたまらなく悔しくて、胸が締め付けられる。これは嫉妬心なのだと気付いたのはその日の午後にクインに指摘されてからだった。
「そりゃあ、嫉妬の一つや二つするでしょ。相手のことが好きならね」
秀治がもらってきた菓子折りの中身を皆と口にしながら恋バナに花が咲く。出勤前の午後三時。クインとアレンの二人でコーヒーを飲みながら語り合う。この時間が秀治には大切なものになっていた。
「こんな醜い感情持ってるって知られたら嫌われるかな」
細々と呟くと、アレンが首を振った。
「そんなことないさ。むしろ嬉しがられると思うけど」
「さっすがアレン。六年も彼氏といちゃついてたら経験豊富だもんね」
ぽりぽりとアレンが頬をかく。珍しく照れているようだ。
「おまえたちはどうなんだよ。その、恋人とどんな感じで接してるんだ?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。クインはあっけらかんとして笑ってみせた。
「義則さんは僕のこと大好き大好きってうるさいから、それを受け入れてる感じかな」
どうやら義則と呼ばれるクインの恋人の方が愛を叫ぶらしい。少し意外だった。てっきりクインのほうが好き好き攻撃をしているかと思ったのに。
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