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第132話
「あ、はい……」
なんとなく初対面なので敬語で答えると、タメでいいよと遮られた。
「君がシュウくんだね。クインと唯斗から聞いてるよ」
へらっと笑う顔は猫目のせいか少しやんちゃな印象を受ける。黒のスーツを着崩して秀治に手を差し出してきた。その手を軽く握り返す。
「僕は|寺島義則《てらしまよしのり》。銀行に勤めてる至って普通のサラリーマンだよ」
銀行マンが普通とは思えない。そう思いながらむすっとした顔をしている拓馬に目をやる。トレーナーにスウェットというラフな格好をしていた。
「ここらで有名な王子様のお姫様があんただったとはねえ」
煙草を揉み消しながら拓馬が口端をあげる。
「悪かったよ。あの日のこと」
秀治はぎょっとして唯斗を見つめたが、にこにこと笑い返されてしまう。その笑みに黒いものを感じてぎこちなく笑った。
「大丈夫。拓馬から全部聞いてる」
怒ってないよと微笑んでくるが、内心どうだかわからない。
「アレンの提案らしいがいいじゃねえか。男六人で江ノ島散策。マンネリ解消にもいいかもしれねぇな」
ふっと鼻で笑った拓馬の自信満々な様子に、つい秀治は降谷と重ね合わせてしまう。今あんなやつのこと考えるなんて、ほんとにどうかしてる。
「そうそう。夜はホテルに一泊するからな。二つ星だが我慢しろ。急に言われて予約するのに一苦労した」
拓馬がふぅっと息を吐く。ゆらゆらと紫煙が揺れた。
「それも大部屋貸切。言ってる意味わかるよな」
野獣のように妖しく光る瞳に全てを見透かされそうで秀治は背筋が冷たくなる。
「楽しい一日になりそうだね」
ネクタイを締め直しながら義則が言う。唯斗はたじろく秀治を見てうっすらと笑みを浮かべていた。
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