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第133話

 江ノ島散策当日、車で迎えにきてくれた義則に礼を言って車内に足を踏み入れる。今日のために磨き上げられたであろうボディが艶々と光っていた。既に車中には義則と拓馬も乗っている。クインは運転をする義則の隣ーーつまりは助手席に。義則の後ろに拓馬が、クインの後ろにアレンが座る。後部座席には唯斗と秀治が収まった。 「安全運転でよろしくー」  助手席ではクインがそう義則に叫んでいる。はぁいと柔らかい返事をして、車はゆっくりと進んでいく。寮から江ノ島までは高速を使って一時間ほどで着くという。一晩泊まると聞いていたので、小型のキャリーケースも持ってきてある。 「クインからだ」  助手席から順々に後ろに余ってきた飴玉を一つもらう。秀治は緊張してしまって言葉少なだ。唯斗と二人きりならまだしも、四人も余所者がいるせいでうまくしゃべれないし、唯斗のことも真っ直ぐ見れない。それを重々理解しているのか唯斗は何も言ってこない。ただ目だけがゆるく婉曲している。いつもと様子の違う秀治を見て楽しんでいるらしい。ふと、目の前で話す拓馬とアレンの会話が耳に入ってきた。 「しらす丼食ったらいくら丼は食えねぇだろうが」 「大丈夫だって。拓馬さんと半物ずつシェアして食べるから」  いつもはこの三人の中でも大人びているアレンだが、拓馬の前になるととたんに幼く見える。  仲良く喋っている二人を見ていると、そっと座席に置いてあった手のひらを唯斗に掬われる。きゅっと固く握りしめられ、言葉が出ない。俯きながらもじもじとしていると、バックミラーでその様子を見ていたのかクインが大笑いをした。 「シュウ耳まで真っ赤じゃん」  後ろを振り向いた拓馬とアレンにもばっちり見られ、さらに頬に熱が集まる。ちらりと横に座っている唯斗に目をやるが、どこ吹く風といったように窓の外を眺めていた。

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