137 / 215

第137話

「とうちゃーく!」  そう叫んで勢いよくクインが外に飛び出していく。今晩泊まるホテルのフロントで荷物を預けると、アレンが行きたがっていたしらす丼を提供してくれるお店に向かうことになった。秀治は目の前を歩く拓馬のことをじろじろと観察する。黒いジーパンに黒のダウン。おまけに靴も黒いスニーカーとあって全身黒づくめだ。ちなみに、インナーのTシャツも無地の黒いだった。しかし、そんな難しいコーデも六人の中で一番の長身とあってかよく似合っている。鍛え上げられているのであろう胸筋や腹筋は服の上からでも容易に想像ができる。車内の位置と同じ配置で二人ずつ並んで狭い歩道を歩いていく。目当ての店に着くと外に人が並んでいた。しばらく待つことにして午後に行く予定の土産屋を調べていると、とんとんと肩を叩かれた。唯斗があれ、と言って散歩中の黒いチワワを指さす。 「シュウくんにそっくりだよ」  犬に例えられて少しがっくりとする。俺、犬と同類なんだ……。 「そんなにがっかりしなくても。小さくて黒くて可愛いってことだよ」  そう訂正されると悪い気はしない。 「次の六名でお待ちの寺島様」  予約表に名前を書いてくれた義則が軽く手をあげる。その後ろに続いて店内に入った。お座敷に通され、すぐに配られたお手製のメニューを眺める。名物のしらす丼に人気ナンバーツーのいくら丼。うに丼や鮪丼なんかもある。どれにしようか迷っていると、唯斗にそっと耳打ちされる。 「二つ頼んで二人で食べる?」  うんと頷いてから、二人でメニュー表を見た。自然と距離が近くなる。こうして外でご飯を食べるのは初めてでうきうきとしてしまう。舞い上がりすぎて変に見られてないかなと目を泳がせていると、これは? と指でメニュー表を指し示される。 「うに丼としらす丼?」 「うん。うに食べれる?」 「食べたことないから、食べてみたい」  本心だった。唯斗は良かったと笑って店員さんに声をかける。

ともだちにシェアしよう!