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第138話

「うに丼としらす丼お待たせしました」  定員さんの笑顔とともにお盆がやってくる。割り箸を割って、ご飯を覆い隠すほどのうにとしらすに見入っていると、選んでいいよと声をかけられる。なんとなく、うに丼を選んだ。 「わ、すごい……」  口に入れた瞬間ふわっととろけるようなうにの食感を楽しんでいると、しらす丼を食べていた唯斗が目を丸くする。どうやら予想したよりも美味しかったらしい。ぐっとグッドサインを出してくる。つられて秀治もグッドサインを出した。和やかな食事を楽しんでいると、先程までそっけなかった拓馬ががつがつと丼に食いついている。アレンが自分の前に置いてあるしらす丼を半分ずつに分けて渡すと静かに受け取って箸をすすめた。これが二人の普段のペースなのかもしれない。無闇な詮索はやめてこの時間を楽しもうと唯斗に向き合う。 「じゃあ交換」  秀治はしらす丼を受け取ったが、中身が七割ほど残っているのを見て唯斗を見た。 「美味しかったからたくさん食べて欲しくて」  そんなに気を遣ってくれるなんてと目を輝かせていると、自分はなんて気が回らないんだろうという嫌悪感に苛まれた。すでにうに丼は半分ほどしか残っていない。 「大丈夫。俺、少食だから」  どこまで人ができているのだろうこの人は。こんもりと盛られたしらす丼を口にしながら思う。自分の好きになった人がこの人でよかったと。口の中で今にも踊り出しそうなしらすにびっくりしていると、ね、美味いでしょと言わんばかりに唯斗が目を細めてこちらを見つめてくる。恥ずかしくなって目を逸らしたが、その後もじっと見られているようだった。

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